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MAGIC☆SALT☆PARTY 8

2020.11.17

神化論のオールキャラギャグです。

▼アイキャッチがじわじわくる目次はこちら

MAGIC☆SALT☆PARTY 1


MAGIC☆SALT☆PARTY 2


MAGIC☆SALT☆PARTY 3


MAGIC☆SALT☆PARTY 4


MAGIC☆SALT☆PARTY 5


MAGIC☆SALT☆PARTY 6


MAGIC☆SALT☆PARTY 7



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 その頃拳での殴りあいどころか呪術での潰し合いをする友人同士は、ほぼ互角の互いの実力を認め合い、なかなか決着が付かないために最終手段を取ろうとしていた。それは互いの必殺の一撃で、この勝負に蹴りをつけようという考えだ。
 
「さすがねラプラ……あなたのその呪術、豊富な術の種類は勿論だけど詠唱速度や威力、制御技術などどれをとっても一流の術者……あの大賢者ベルドールに『禁忌を恐れぬ禍の呪い師』と恐れられただけあるわ」
 
「あなたも素晴らしいですよ、ウネ。盲目ゆえに得たであろう、我々の知りえぬ呪術世界を視るその超感覚は、私の知らない術を即興で生み出しては正確無比に次々と打つ……本当に羨ましいですよ。私の求める呪術センスはまさにあなたのそれです」
 
 互いを認め合った二人は、認めるからこそに不足のない相手に向けて自分の最終奥義をぶっ放そうと準備する。
 
「友人であり、かつ同じ呪術師としても認めるあなただからこそ、私は間違ってほしくは無い……だからこの一撃で止めるの。塵も残さず滅する私の必殺の一撃を受けて、ラプラ。そして自分の間違いに気づいて」
 
「あなたのことは友人として好いてもいますし術者として尊敬もしていますよ、ウネ。ですが私の愛を邪魔するのならば仕方ありません……私の見つけた三冊の禁書の内の一冊、『エイボンの書』に記された禁術を再現してあなたにお見せしましょう。そして私の邪魔をしたことを後悔しなさい」
 
 何か少年漫画のような熱い展開のようなそうでないような、とにかく『どうしてそうなった』な超展開に突き進む二人の元に、貧乏くじを引かされて派遣されたレイリスが近づく。
 
「あぁいやだ怖い助けてもうなんであたしがこんなことイヤイヤイヤぁ~!」
 
 高所の恐怖でキャラが迷走してるレイリスは、ラプラたちが恐ろしい術を準備しているのにも気づかない。そのまま彼は、ほぼ同時に呪文詠唱を終えて術を発動させようとするラプラたちの元に突っ込んでいった。
 
「!?」
 
 レイリスが自分の身の危険を感じたのは、禍々しい紫の魔法陣が空を覆いつくし、白の光の柱がいくつも周囲に出現した時だった。さすがにこの嫌な予感しかしない事態に、レイリスも高所の恐怖を忘れて正気に戻る。
 
「え……ちょっとなにこれ、さすがにこれはやばく、ない……?」
 
 そうレイリスは呟くも、どうしていいかわからない。逃げようにも、発動しようとする術の範囲が馬鹿みたいに広くて逃げられそうもないのだ。
 そしてレイリスの超ピンチに、地上の者たちも気づく。
 
「おい、アレはなんかやばくねぇか……?」
 
 空が禍々しい色に染まり、ララはさすがにレイリスの心配をする。するとついにマギが復活して、彼は自分の体が大ピンチになっている事態に青ざめた。
 
「くそ、あれはどういうことだ! 俺の体が……っ!」
 
 レイリスはどうでもいいが、自分の体の危機にマギは顔面蒼白で叫ぶ。というか下手をすれば自分たちも怪しい術に巻き込まれそうで、ユトナは「やべぇよ、逃げようぜ!」と皆に言った。
 
「でも逃げるったって……どこにだよ」
 
 ユーリがそうどこか諦めたように言う。確かに今更どこに逃げるのかと聞かれ、ユトナも答えられない。
 そしてついに、二人の術者による最凶の術が空に炸裂した。
 
 
「やあぁあぁぁっ!」
 
 完全にとばっちりで術のど真ん中で巻き込まれたレイリスは、マギの姿のままで可愛い悲鳴を上げる。
 彼はわけがわからない中でさすがに死を覚悟した。
 
「!? 誰!?」
 
「人?」
 
 だがレイリスの悲鳴は幸いにも、暴走していた二人の耳に届く。二人は無関係の第三者の存在に気づき、慌てて発動した術を止めようとした。しかし一度発動してしまった術は、そう簡単には止まるはずもない。
 
 そして……――
 
 
「……うっ……」
 
 強い衝撃を受けたのを最後に記憶が途切れたレイリスは、意識を取り戻して薄っすら目を開ける。ここは死後の世界だろうかと思いぼんやりと目を開けた彼は、しかしここはさっきと変わらず現実世界の火山だと気づいた。
 
「っていうか……」
 
 何か体が重い。いつの間にか地上に落ちていた自分は、”何か”の下敷きになっていた。いや、庇われていたのか?
 
「ラプラ……?」
 
 発動された凶悪術からレイリスを守るためにか、ラプラが彼を庇うように覆いかぶさっていたのだ。ラプラはレイリスが意識を取り戻すと、こっちも目を覚まして「あぁ、無事でしたか」と言った。
 
「あ、うん……でも、あの……」
 
 ラプラはマギの姿の自分が本物のレイリスなのだと気づいていないはずなのに、なぜ庇ったのかとレイリスは不思議に思う。するとラプラ自身も不思議そうにこう言った。
 
「何故かあなたを助けなくてはと、そう本能的に思いまして……」
 
 興味あること以外はどうでもいい主義のラプラだから、姿はマギのレイリスに気づいていなければ庇うなんて絶対にしないはずだろう。だが彼は愛の本能?で、レイリスと気づかないままに彼を救おうと行動したのだった。
 
「ラプラ……」
 
 レイリスはこのことでちょっとだけラプラを見直す。だがまぁ、それだけだ。ぶっちゃけ『驚かせやがっててめぇら』と、レイリスはラプラたちに怒りさえ覚えていた。
 するといつの間にいたのか傍にウネが立っていて、彼女はとても感動した様子でレイリスたちを見ていた。
 
「ラプラ、あなた……彼がレイリスだって知らなかったはずなのに……」
 
 声を震わせながら、彼女は感動を呟く。ちなみにラプラと同じく、焦ったウネも防御術を使って地上を守ったために、術の威力のわりには地上はそんなに被害が出なかった。当然ユーリたちも怪我は無い。
 
「なのにレイリスを庇ったなんて……私、もしかして間違っていたのかも……ラプラ、あなたの愛は本物なのね……」
 
 何でか知らんが涙まで流して感動するウネに、レイリスは「ちょっとウネ、何言ってるの?」と一応突っ込む。だが彼女も人の話を聞いちゃいない。ラプラのことを怒れないウネは、そのまま力強く叫んだ。

 
「ラプラ、私これからはあなたを出来る限り応援する!」
 
「ちょ、止めて!」
 
 思わずレイリスが拒絶を叫ぶも、魔族二人はやっぱり人の話を聞かないで話を進める。
 
「それはつまり、あなたもついに私とレイリスのことを認めてくれると……?」
 
 ラプラがウネに問うと、彼女は小さく頷く。何か雰囲気的にはいいシーンのようだったが、レイリスは『なんだこれ』とドン引きしながらわけのわからない二人を見つめた。
 
「ありがとうございます、ウネ。これで私も心置きなくレイリスと夫婦になれます」
 
「でもやっぱり好きな人を閉じ込めておくのはいけないと思う……せめて首輪くらいで我慢するべき」
 
「ウネ、正気に戻ってよ! 首輪もおかしいから!」
 
 その頃ユーリたちは友情を深め合うラプラたちと虚しいツッコミをするレイリスを遠くから生暖かく見守りながら、『何でもいいからさっさと帰らせろ』と思っていたり。
 
「もう火竜の鱗手に入れたんだし、さっさと戻ろーぜぇ? 俺もいい加減ローズの体じゃなくて、自分の体に戻りてぇし」
 
「そうだ! 早急に俺の体をあの変態から奪い返さねば……っ! ……元に戻ったら覚えていろレイリス、貴様にはたっぷり地獄を見せてやる……!」
 
「お腹空いた……マスターたちは無事かな?」
 
 
 そんな感じで火竜の鱗をなんとか手に入れたメンバーも、やがて元に戻る為に鱗を持って元の城へと戻っていった。
 
 
 
 
◇◆◇◆◇◆
 
 
 
 
 そして、警告を告げる謎の存在に怯えるエルミラたちはどうなったかというと。
 
『命が惜しくば立ち去れ』
 
 男か女か、子供か大人かわからない半透明な人型の存在は、しかし明らかに人ではないということはわかる。
 エルミラたちは目の前の不可思議な存在を『絶対にお化けだ』と確信し、涙目で怯えていた。しかし、やはりというか彼らが謎の存在に怯えるなんて事は無かった。
 
「は? 何それ、僕に命令? クソ生意気……君、何様のつもりな訳? ちなみに僕は神様だけど」
 
 怯えるどころか不機嫌に反発するウィッチは、隣に無表情に立つミレイに「ねぇミレイ、あいつムカつくよね?」と謎の存在を指差して聞く。ミレイは無表情のまま「はい」と、主人に忠実に頷いた。
 そんな二人の態度に、エルミラが顔面蒼白で慌てる。
 
「ひいいぃぃ神サマだめだって! あれは間違いなくお化け……いや、悪霊だよ! 下手に刺激したら呪い殺されるって!」
 
 エルミラがそう言うと、リーリエやアゲハが悲鳴を上げる。だがウィッチは済ました顔で、こう返事をした。
 
「呪い殺す? なんだ、そんなの僕だって出来るよ」
 
「こわっ! やめて、そんなこと自慢げに言わないで!」
 
 悪霊も怖いが同じレベル、いややっぱりそれ以上にウィッチが怖いことを確認し、エルミラたちはますます怯える。
 
「ねぇミレイ、本当に呪い殺せるの? か、神様なのに?」
 
「ウィッチ様ならそれくらい余裕だぞ、レイチェル」
 
「あわ、あわわわ……恐ろしいです……でももしかしたらわたしも、その気になれば出来そうな気がします……」
 
「り、リーリエさん! その気にならないで下さい! 怖いですから!」
 
 すると自分を無視して話を始める彼らに悪霊(仮)はイラっとしたのか、思わず『私を無視するな』とか彼らに言う。
 悪霊(仮)のその訴えを聞いて、お化けもウィッチも怖いエルミラは「わぁ、すみません!」と素直に謝った。だがウィッチは「そんなのに謝る事ないよ」と、ますます悪霊(仮)を挑発することを言う。
 
『なん、だと……?』
 
「うわあぁだから神サマダメだってば! これ以上お化けを刺激しないでって!」
 
「えーでもなんか僕に命令とかしてすっごいムカつくんだよねー、そいつ」
 
 悪霊(仮)が気に食わないウィッチは、プリプリ怒りながら悪霊(仮)に向かって「君がどけよ」と堂々と言った。これに悪霊(仮)もついにブチ切れる。
 
「あのねー、僕らは君みたいな見るからに雑魚っぽいのに用はないの。早くどいてよ。僕たちはその後ろの水に用があるんだから」
 
『……貴様らに退く意思がないのはわかった。ならば私はこの恵みの水を守るために貴様らを滅せよう』
 
 悪霊(仮)はそう言うと、なんと突き出した右手の前に青い魔法陣のようなものを出現させる。呪文詠唱なく魔法陣もどきを出現させたことも驚きだが、それ以前に魔法を使える存在だという事にエルミラたちは目を見開いて驚きを示した。
 
「ま、魔法!?」
 
「えぇ、どうして?! 魔法って、だって普通は使えないんじゃ……」
 
「バカレイチェル、あれは悪霊(仮)だぞ! 普通なわけないだろ!」
 
 エルミラたちが驚く一方で、やっぱりウィッチは落ち着いてつまらなそうに悪霊(仮)を見ている。どうも彼は悪霊(仮)の正体に気づいているようで、魔法陣を前にしても慌てず騒がす、こう悪霊(仮)に向けて言った。
 
「ふぅん、君って水のマナの具現化した存在だよね? それも低級の、たいした力も無い雑魚。たしか、ミスラの精霊と呼ぶのが正しいかな」
 
『!?』
 
 悪霊(仮)、もといミスラの精霊は自分の正体を当てたウィッチに動揺を示す。マナの恩恵乏しいこの世界で、マナの存在を知る者は珍しいので驚いているのだろう。
 
『貴様、一体……』
 
 ウィッチを只者ではないとやっと気づいたミスラの精霊は、魔法陣に似た青い輝きはそのままに彼に警戒しながらそう聞いた。するとウィッチは凶悪な笑みをミスラの精霊に向け、こう答える。

「僕が誰かって? 君、それ本気で聞いてるの? さすがは頭の悪い雑魚だね、この僕が誰だかもわからないなんて」
 
『……!?』
 
 ウィッチの凶悪な笑みと全身から発せられる圧倒的な威圧感に、精霊は彼が何か恐ろしい存在だと知った。
 むしろ、彼は……
 
「僕がその気になれば、君程度の雑魚消滅させることも簡単なんだよ? ねぇ……」
 
『あ、あぁ……あなたは、もしや……』
 
 ついにウィッチの正体に気づいた精霊は、声を震わせて怯えた後に唐突に姿を消す。それを見て、エルミラは恐る恐るウィッチに聞いた。
 
「うわ、神サマ本当にお化け消しちゃったの?!」
 
「え、違うよ。今のはあっちが勝手に消えたのー。僕は何もしてないよー」
 
 ウィッチはいつもどおりの胡散臭いくらいに可愛い笑顔でエルミラに振り返り、彼にそう答える。そして彼はそんな笑顔のまま、エルミラたちにこう言った。
 
「さ、邪魔なものもいなくなったし、マヤが僕に会いたくて泣いてると思うから早くあの水汲んで持って帰ろう?」
 
 
 
 
◇◆◇◆◇◆
 
 
 
 
 そして……――
 
 
「はぁ……やっと自分の体に戻れたな」
 
 久々の自分の体の感覚を確かめながら、ローズはほっと胸を撫で下ろしながらそう呟く。彼の隣では、マヤも安心したように微笑んでいた。
 
「うんうん、やっぱりローズはこれでなくっちゃね。なんかちょっとアホっぽい愛嬌ある顔でなきゃローズって感じがしないもの」
 
「なんか褒められてないよな、それ」
 
「何言ってるのよ、これ以上ないくらいに褒めてるわよ!」

「えぇ……そうなのか?」
 
 皆が手に入れた材料を使ってエルミラは大至急元に戻る薬を作り、肉体が交換されてしまった者たちはその薬を飲んで、やっと無事に普通の姿に戻る事が出来た。
 
「はー……ローズの体で戦うのも面白かったけど、やっぱ俺はこれじゃねぇとなー!」
 
 ユーリも自分の体に戻ったことを喜ぶ。彼の隣ではアーリィも嬉しそうに「よかったね」と笑顔を向けていた。
 
「でも……」
 
「どうしたの、ユーリ」
 
 何か気になる表情をするユーリに、アーリィが問いかける。するとユーリは自分の腕を摩りながら、こんなことを言った。
 
「いや、なんか微妙に体中がいてぇような……」
 
「!?」
 
 ユーリのその呟きを聞いて、ローズが激しく動揺を示す。マヤも無言でユーリから目を逸らした。
 
「なんなんだ、この妙な痛み」
 
「きき、気のせいじゃないか、ユーリ?! そんな、痛みなんて感じるはずないだろう!」
 
「ローズ?」
 
 不自然に動揺するローズに、ユーリは怪訝そうな視線を返す。するとますますパニくったローズは、うっかり余計な事を口走った。
 
「だって、アイフェにおしおきされた怪我は全部マヤに治してもらったし……」
 
「は? 怪我?」
 
「あぁ! な、なんでもない!」
 
 慌てふためくローズは真っ青な顔色でブンブンと激しく首を左右に振る。だがユーリが怖い顔で「どういうことだ?」と詰め寄ると、彼は無言でその場から逃走を図った。
 
「あ、ローズ! おい、待て!」
 
 逃げるローズを追いかけ、ユーリも走る。そんな二人をマヤとアーリィはちょっと笑いながら見守った。
 
「よかったよね、いつもの二人に戻って」
 
「はい。ローズがユーリで、ユーリがローズでってややこしかったですから」
 
「だよねー。やっぱあの二人はあの姿でないと」
 
「ですね」
 
 
 そしてヴァイゼスの者たちも、無事に元の体に戻ることが出来たことをそれぞれに喜んでいた。
 
「あぁ、やったぁ! 元の俺の体だ!」
 
 そう珍しく大声を上げ、テンション高く喜ぶのはヒスだ。まぁ幼女でいなければいけなかったのだから、それくらい彼が喜ぶのも当然かもしれない。だが彼は喜びすぎて、眼鏡無いので前がよく見えなくてまた壁にぶつかっていた。
 
「私も、ヒスの体も面白かったですけどやっぱり自分が一番ですね。シャルルを操れますし」
 
 カナリティアは、本気で喜ぶヒスを眺めながら苦笑しつつそう呟く。彼女の隣では、今まで機能停止していたシャルルが復活して、うんうんと首を縦に振っていた。
 
「だよなー、やっぱり自分が一番だぜ。俺まだ二十代なのに加齢臭するおっさんとか苦痛だったもん」
 
 ユトナがそう溜息と共に呟くと、彼の後ろで元に戻ったララが「小僧、ちょっと面貸せ」と怖い笑顔で言う。
 
「あ、クロウさんいたんですか? あはは、やだな今のは冗談……」
 
「うるせー、誰が加齢臭するオッサンだ! こっちこい!」
 
「ぎゃあぁあぁぁっ! 助けて誰かぁー!」
 
 そうしてユトナは怖い笑顔のララに引っ張られ何処かへと消える。レイチェルはララに引っ張られていったユトナを心配そうに見送りながら、彼らが消えると視線を前方に戻した。
 レイチェルの視線の先には、今回の騒動の元となった悪夢の薬を作ったエルミラの姿。彼は泣きそうな顔でレイチェルを見返し、彼にこう言った。

「レイチェル、これ解いて……」
 
「だーめ。それは今回の事反省してもらう為の罰なんだから」
 
 元に戻す薬を作り終えたエルミラは、今現在縄で柱に縛られて身動きとれない状態になっていた。
 
「オレ、こんな縛られる趣味無いんだけど……」
 
 こんな反省を強いられているエルミラも今回は被害者でもあるので、彼は『何で自分だけこんな目に……』とがっくり肩を落とした。
 
「でも、ちょっとだけ楽しかったですよね……体が変わるって言うのも……」
 
 元の姿に戻ったリーリエが、そんなことをのほほんとした笑顔で言う。彼女は自分とは正反対に明るいアゲハを、姿だけでも体験出来たのがそれなりに楽しかったのだろう。アゲハも「ですよねー!」と、非常に彼女らしい笑顔でリーリエの言葉に頷いていた。
 
「で、でもやっぱり私は……自分の姿がいいです。だってジューザス様の姿なんて、その……嬉しいけど何か違うっていうか……自分自身が好きな人になっても……」
 
 そこまで独り言を言ってから、エレスティンはハっとした様子で顔を赤くする。
 
「あぁあぁ、何言ってるの私! 違う、違うの! 今のに深い意味は無くて……っ!」
 
「? エレスティンさん、どうしたんですか?」
 
「いやあぁぁぁ……っ」
 
 赤面して蹲るエレスティンを見て、アゲハは「具合でも悪いんですか?」と聞く。リーリエも奇声を発するエレスティンを心配そうに見つめた。
 
 そして、元の体に戻った事で復讐に燃える男が一人。
 
「おいジューザス、あの変態クソ野郎はどこに行ったんだ……?」
 
 今回の件で散々レイリスに酷い目に合ったマギが、カスパールを持って世にも恐ろしい魔王の顔でそうジューザスに聞く。ついにマギ魔王が復活したのだった。
 
「れ、レイリスかい?」
 
 マギは先ほどから姿が見えないレイリスを捜し、ジューザスに「あいつの居場所を知っていたら三秒以内に吐け」と脅す。するとマギの放つ負のオーラに怯えながら、ジューザスはマギの疑問にこう答えた。
 
「それが……彼ならついさっき私にこんなものを押し付けて『しばらく旅行行ってきます☆』とか言って何処かに行ってしまって……」
 
 そう言ってジューザスがマギに見せたのは、休暇届と書かれた紙。それを見て、マギは血管ブチ切れそうになった。
 
「貴様、それであいつに休暇を与えて逃がしたのか……」
 
「に、逃がしたつもりなんて! 誤解だマギ、彼はこれを私に押し付けて……!」
 
「問答無用! あいつを逃がしたならお前も同罪だ!」
 
 マギはそう叫ぶと、カスパールをジューザスに向ける。ジューザスは真っ青になり、「なんで?!」と涙目で叫んだ。
 
 そうしてジューザスが涙目でマギに追い掛け回されている頃、ウィッチ様は改めて元に戻った皆を前にマイクを握って立っていた。
 
 
「それじゃ皆、無事に元に戻ったことを祝ってのパーティーを始めようか!」
 
 ウィッチのこのまさかの一言に、皆はぎょっとした顔で一斉にウィッチを見る。さらに彼はこんな事を言って、皆を怯えさせた。
 
「僕たちが頑張っている間に、ミルフィーユがまたいっぱい料理作ってくれたらしいんだ! だから皆、働いてお腹空いただろうしたくさん料理食べてってね!」
 
 そうウィッチが言うと、タイミングよくミルフィーユが大量の料理を運んで部屋に入ってくる。今の彼らの目には、ミルフィーユの料理は悪夢の始まりにしか見えなかった。
 
「なんかもうあいつの料理は食いたくねぇ……」
 
 ユーリが思わずそう呟くと、皆それに同意したように首を立てに振る。それでもウィッチという気まぐれ神の気が済むまで自分たちは解放されない事を知っている彼らは、ただただ溜息を吐いてうな垂れるしかなかった。
 
「さ、皆どんどん食べてねー! 全部食べ終わるまで、僕は皆をお家に帰らせないよー! あははははははっ!」
 
「な、なんでそうなるのよぉー!」
 
【END】
 
 
 






 
 
【おまけ】
 
 
「あれ……ウネちゃん、ラプたんの姿が見えないけど……あの変態さんはどこ行ったの?」
 
「さぁ……私は知らない」
 
 
 
 その頃、ボーダ大陸の某リゾート地区の浜辺。
 
「ふー、いい天気で気持ちいいいわねー。休暇溜まってたし、この浜辺でのんびりとほとぼり冷めるまで海眺めてるってのもいいわよねー」
 
 そう言ってパラソルの下のビーチチェアでゆったりくつろぐレイリス。マギから逃げる為にこんなとこでのんびりくつろいでる彼だったが、彼が本当に逃げなくてはいけない人物はマギではなかった。
 ビーチチェアに寝そべって心地よく海を眺めるレイリスの背後に近づく、不吉な陰。
 
「……見つけましたよ、レイリス」
 
「!?」
 
 世にも恐ろしい声を聞いて飛び起きたレイリスが背後に見たものは。
 
「さぁ、約束通り私と一つになりましょう……もう二度と逃がしませんよ?」
 
 そして平和なリゾートビーチに悲鳴が響き渡った。
 
【END】

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