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MAGIC☆SALT☆PARTY 2

2020.11.16

神化論のオールキャラギャグです。

MAGIC☆SALT☆PARTY 1



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 あのレイリスが思わず敬語になって涙目で頷いちゃうほど、今のエレスティンの殺気オーラは凄まじかった。
 
「えぇ、どうせ私は体重が平均よりも少し重いわよ! そうですよ、だから少しでもスタイル良く見える黒のドレス選んだんです! 悪い?!」
 
「わ、わるくないです……ごめんなさい……」
 
 エレスティンの見たことも無いキレっぷりに、無意味に謝っちゃうほどレイリスは怯える。体重の話題はやはり女性にはタブーなようだと、彼は足元に無残に転がる眼鏡を見ながらそれをよ~く理解した。
 一応エレスティンの名誉の為に説明しておくと、彼女の体重の量を増やしている原因は熊をも素手で倒すパワーを宿した彼女の超肉体の筋肉と胸が主だ。なので彼女は別に太っているわけでは全く無いのだが、あいにくそれを彼女へ直接伝える命知らずの勇者はここにはいなかった。数秒前までいた命知らずの眼鏡は、まだ今も意識失ったままぶっ倒れているし。
 やがてエレスティンは「はいはいダイエットすればいいんでしょ!」と、キレ気味のまま医務室を出て行く。
 
「……ヒス、生きてる?」
 
「……」
 
 返事は無い。
 ここ唯一の医者がこんな状態の場合は一体誰が負傷者を助けるんだろうと、レイリスは立ち尽くしながらわりと真剣に悩んだ。
 
 
◇◆◇◆
 
 
 場所が変わってボーダ大陸のとある都市の宿泊施設の一室。
 一応正装したローズたちご一行の元に、毎度面倒を巻き起こす彼が笑顔でやって来ていた。
 
「わぁ! マヤ超綺麗、可愛い、美人! さっすが僕のマヤだね!」
 
「あんたのマヤじゃないけどね」
 
 ローズたちを強制参加、もとい迎えに来たウィッチは、マヤにデレデレの笑顔を向けて喜んでいた。
 マヤは大人っぽい色合いとデザインの紺のドレスを纏い、長い金髪をアップにさせていつもとは違う雰囲気の美女に変身している。
 
「ユーリ、これ本当に変じゃないか?」
 
 彼女の後ろでは貸し衣装屋でレンタルした黒の燕尾服を着たローズが、同じくタキシードを借りて着たユーリになにやら色々確認をしてもらっている。
 
「だいじょーぶだいじょーぶ、いつものぼんやりしたローズとは思えないくらい今日はしっかり決まってるぜ」
 
「ぼんやりって何だ。……ところでユーリ、お前も今日は髪の毛に寝癖が無いな」
 
「だ、だからあの髪型は寝癖じゃないの! ああいうふうに毎朝セットしてるの! いい加減覚えて、ローズさん!」
 
 今日は服装に合わせてかいつもの前髪を盛り上げた髪型ではなく、ローズのように自然に下ろした髪型でちょっと雰囲気が違う。ローズが童顔気味なのも理由だろうが、髪を下ろしたユーリは落ち着いた印象が増して、ローズよりも年上に見える大人っぽい雰囲気に変わっていた。
 そんな雰囲気の変わった彼を、後ろでアーリィが無表情にじーっと見つめている。ユーリはアーリィのその視線に気づき、そちらへ顔を向けた。
 
「あ、どうしたのアーリィちゃん。俺がかっこよすぎて見惚れちゃってる?」
 
「なっ!?」
 
 ユーリがふざけた笑顔でそうアーリィに言うと、アーリィは途端に顔を真っ赤にさせる。そのわかりやすい反応に、ユーリは思わず嬉しくてニヤニヤした。
 
「か、かか、かっこいいとか、よくないとか、そういうのよくわからないけど……でもそれはどっちかって聞かれたら、きっとかっこいいと思う……べ、べつにそう思うのが普通でしょう?」
 
 真っ赤な顔で困ったようにそうユーリに返事を告げるアーリィも当然正装しており、濃い赤のドレスでマヤ同様に落ち着いた雰囲気の装いをしている。髪に飾った大きな真紅のバラの髪飾りだけが若干派手な印象を与えていたが、マヤが自分の欲望に正直になって全力で選んだ格好なので、アーリィにとてもよく似合っていた。 
「アーリィちゃんもマジで美人! すっごいくいいよ!」
 
「あ、あ、あああ、な、なに、なにいきなりっ……! へ、へんなこと、言わないでっ!」
 
 そろそろ倒れるんじゃないかと心配になるくらい赤面して動揺するアーリィを微笑ましく見つめた後、ローズは相変わらずマヤしか見えてないウィッチに向き直る。
 
「マヤー、そろそろ僕たち籍を入れる頃だと思うんだよね!」
 
「寝言は寝て言えボケ、誰があんたなんかと夫婦になるか」
 
「もー、照れちゃってぇ!」
 
「アタシのこの顔をちゃんと見ろ。どこら辺が照れてるんだっつの」
 
「あの、それでウィッチ……この後俺たちはどうすればいいんだ?」
 
 マヤとウィッチの会話に割って入ったローズは、「このままお前が会場に連れてってくれるのか?」と聞く。ウィッチは「そのつもりー」と、ローズの問いに答えた。
 
「僕の転送魔法でぱぱっと連れてっちゃうよ!」
 
「ぱぱっとはいいんだけどよぉ、会場がヴァイゼスんとこってお前、一体どういうパーティーなんだよ」
 
 ユーリがそう怪訝な顔で問うと、ウィッチは楽しそうな笑顔でこんなことを言う。
 
「正確にはそこが会場ってわけじゃないんだけどねー」
 
「え?」
 
 ユーリと並んで、マヤも眉間に皺を寄せた表情でウィッチを見る。ウィッチはただ楽しそうに「まぁ行ってみればわかるよ」とだけ答えた。
◇◆◇◆
 
 
 謎パーティー開幕予定時間の一時間前。
 ヴァイゼスのメンバーも皆、ウィッチ主催の不吉な予感がするパーティー出席の為に正装を行う。
 
 
「ねーエル兄、僕の格好これで大丈夫?」
 
「おー、レイチェルいいんじゃないか?! 可愛い、なんか七五三みたいで!」
 
「……蹴るよ、エル兄」
 
「おっと冗談です、大丈夫レイチェルかっこよく決まってます。あ、オッサンもいい感じじゃん!」
 
「エルミラ、ぶん殴るぞ」
 
「褒めたのになんで!?」
 
「オッサンって言うな!」
 
「でもクロウさん、本当にかっこいいよー」
 
「おーレイチェルは相変わらずいい子だなー、よしよし!」
 
「あ、頭撫でないで! 髪の毛ぐちゃぐちゃになっちゃう!」
 
「おぉ、そうか。わりぃわりぃ」
 
 ちゃんとした礼服を若干着崩した格好のエルミラと、少し背伸びした印象の燕尾服に身を包んだレイチェル、そしてララが談話室で見慣れないそれぞれの格好について和気藹々と言葉を交し合う。その近くでは同じように黒のタキシードで正装したジューザスと、以外にきちっとした礼服が似合う不機嫌な様子のマギが立っていた 。
 
「くそ、面倒だ……」
 
「いいじゃないか、お金出さないで飲み食い出来るんだし」
 
 ヴァイゼスから一切お金が出ないので、ジューザスは上機嫌だ。しかし、なら一体どこからお金が出てるのかとちょっとそれを疑問に思わなくも無かったり。
 
「ウィッチ、またミレイに無理させたのかな……?」
 
 思えば自分と似たような境遇にいるミレイに、ジューザスは心から同情した。
 
「で、女性陣はまだなんスかねー。早くドレスみたーい」
 
 早く綺麗なドレス姿の女性陣で目の保養をしたいと、きっちりタキシードを着ながらもだらしない姿勢で部屋のソファに座るユトナがそう正直な事を呟く。
 するとユトナのご要望に斜め上の形でお応えして、「お待たせ」と言いとんでもない人がドレス着て部屋に入ってきた。
 
「れ、レイリスさん、それどうしちゃったの?!」
 
「あぁ、どうしたかだって? そんなのこっちが聞きたいわよ」
 
 マギ以上に不機嫌な様子で、レイリスは例のあのドレスを着てやって来る。だがそこはさすがと言うか『性別って何それ食えんの?』的な常識を突き破るのが大好きな男レイリスなので、女性もののセクシーなドレスも完璧に着こなしてしまっていた。本当に恐ろしい。
 髪には宝石と花の装飾具を付けて、控えめながらもさり気なく輝く宝石類を首や手首に飾り、爪の先まで綺麗に朱色のマニキュアを塗った彼はいろんな意味で輝いていた。しかもしっかり衣装に合わせてメイクまでしている。やるからには徹底的にやるという姿勢は大変男らしい彼は、どこまでも突き抜けた漢だった。
 
「すげぇ……俺レイリスさんみたいな人、この前クールークの高級娼館で見たぜ」
 
「あら、あそこで週一でバイトしてるのばれちゃった?」
 
「ちょ、冗談に聞こえないから怖い……」
 
 冗談に聞こえない冗談を妖艶な笑みで言うレイリスにユトナは苦笑する。それにしても太ももの魔力で、スリットから覗く生足に目がいってしまうのが悔しい。
 
「……真面目な話、その……下着とかどうなってんのレイリスさん。まさかそれ、はいてない……」
 
「ふふ、知りたい? パーティー終わったらベッドでゆっくり教えてあげましょうか?」
 
「え、ちょ……マジで……?」
 
「えぇ。 ……ただしテメェのバックバージン喪失と引き換えだけどな」
 
「ひいぃ、絶対知りたくないです!」
 
 ユトナをからかう事でだいぶ機嫌が直ったレイリスの後から、ヒスが部屋に入ってくる。彼は何故か大変具合が悪そうで、かつ眼鏡が無かった。
 
「あれヒス、眼鏡ないけどどうしたの?」
 
 ジューザスが顔色の悪い彼を心配しながら声をかける。するとヒスは眼鏡が無いから良く見えないのか、壁にぶつかりながらもよろよろと彼の元にやって来てこう説明をした。
 
「……今朝壊れたんだ」
 
「な、なんで?」
 
「色々とあってな……」
 
 眼鏡の無いヒスもさすがに今は白衣は着ておらず、パーティー用のタキシードを着用している。ただ彼はエレスティンに鉄拳ぶち込まれたお腹がまだ痛くて、正直パーティーどころじゃなかった。
 
「予備の眼鏡があるじゃないか」
 
「さっき予備の眼鏡探してたら、それ仕舞ってた引き出し落っことして眼鏡を全滅させてしまった……これ終わったら買いに行かないと」
 
「あ、あぁ……そう……」
 
 何かもう厄が憑いてるとしか思えないヒスの不幸っぷりに、ジューザスは何も言えなくなる。その時、待ちに待った女性陣が部屋にやって来た。
 
「お待たせしました。慣れない事だから準備に時間がかかってしまって……」
 
 そう言ってまず部屋に入ってきたのは、今朝ヒスを強制的に黙らせたエレスティン。
 ダイエットなど全く必要の無い彼女は、抜群のプロポーションでシルエットがかっこよく美しい黒のパンツドレスを着こなしていた。
 高いピンヒールや緩くアップにした長い髪なども、普段以上に彼女をかっこいい美人に見せる要素になっている。
 何となく男のドM心をくすぐるエレスティンの後から、子供向けの愛らしいデザインのドレスを着たカナリティアが顔を覗かせる。
 
「皆なんだか雰囲気違いますね」
 
 エレスティンにやられたのか、カナリティアの髪には緩いふわふわなパーマがかかっている。さらに頭のてっぺんに大きな黒のリボンがあり、フリルの多いドレスといい彼女だけ何故かロリータファッション的な装いとなっていた。多分エレスティンの趣味だろう。彼女の後ろには、フリルの多い黒の頭巾を被ってゴスロリ仕様と なったシャルルが、相変わらずの無機質な笑顔で不気味に佇んでいた。
 
「わぁ、皆さんかっこいいですねー!」
 
 いつでも全力で元気なアゲハも、いつもと雰囲気を変えて部屋に入ってくる。
 いつも左右で二つに結っている黒髪を下ろした彼女は、スカートの丈が膝までの若干可愛いデザインのドレスを着ていても、やはりいつもより大人っぽい雰囲気となっていた。
 そんなアゲハの目にドレス着ちゃったレイリスの姿が映って止まる。
 
「あ、レイリスさん! すごい、やっぱり私が選んだとおりですよ! そのドレス、とてもよく似合ってます! 綺麗です!」
 
「あぁ……そう、あなたが犯人……いえ、ありがとう」
 
 なんとなくわかってはいたが、ドレスの主な原因はアゲハと知りレイリスはどっと疲れる。疲れた彼は「レイリスさんは私の憧れの女性ですー!」と言う元気なアゲハの発言をもう聞かなかったことにした。

 元気いっぱいに色々勘違いするアゲハの後から、リーリエもドレス姿で部屋に入ってくる。
 彼女の大きな胸を強調する胸の大きく開いたデザインの青いドレスを着た彼女は、その控えめな性格とは裏腹に物凄く目立った。主に胸で。
 
「うぅ……やっぱり恥ずかしいです……無理なんです、わたしなんかにこんなドレスぅ……」
 
 胸元が大きく開いたドレスが恥ずかしいらしく、リーリエはちょっと泣きそうな顔でそんなことを言いながらエレスティンの陰に隠れる。だがそういう大胆デザインのドレスを選んだのは彼女自身なので、今更恥ずかしがるのも不思議だと自分の後ろに隠れたリーリエをエレスティンは心底不思議に思った。
 
「リーリエ、似合ってますよ? なんでそんな恥ずかしがるの?」
 
「うぅぅ~、だってぇ……だってぇ~……いやああぁぁ……」
 
 恥ずかしすぎてキャラが変わり始めているリーリエはとりあえずそのままにしておくことにして、エレスティンは室内のメンバーをざっと見渡して確認をする。
 
「皆集まっているようですね」
 
 エレスティンはそう呟くと、ジューザスの方へと近づいた。そして彼女の胸がときめく。
 
「じゅ、ジューザス様、今日はまた一段と素敵ですね……じゃなく、全員揃ったようなのですけども、この後は一体どうすれば……」
 
 普段と違う格好のジューザスにときめきながら、エレスティンは彼に報告と確認を行う。しかしジューザスもウィッチに『時間になったら談話室にでも集合しておいて』としか言われていない為に、エレスティンに困った返事しか返す事が出来なかった。
 
「う~ん……この後どうするかは私も聞いて無いんだよね」
 
「そ、そうなんですか……」
 
 そんなわけでこの後のことを何も聞いていない皆が困っていると、突然部屋のドアが開いて「お待たせー!」と言いながらウィッチがやって来た。
 
「いつでも働き者でとにかくすんごい偉いこの僕は、今ゲストを迎えに行ってたんだけど……うんうん、ヴァイゼスの皆もちゃーんと僕の言うとおり正装して集まってるみたいだね」
 
 満足そうにヴァイゼスの皆を確認するウィッチの後ろから、彼に強制連行されてきたローズたちが部屋に入ってくる。彼らもまたヴァイゼスの皆同様に、色々諦め切った表情をしていた。
 
「で、そこのアホ。この後アタシたちをどうするつもりよ」
 
 マヤが今にもブチギレそうな形相でそうウィッチに問う。するとウィッチは「こうするの♪」と、また語尾に可愛く『♪』なんて付けながら、全く可愛くない行動を突如取り始めた。
 
「それじゃいっくよー! 『LoGiNContST-KEY 000100110110…』」
 
 突然奇妙な古代呪語を口にしたウィッチに、周囲は慌てふためく。『このガキ突然なにしやがる』と周囲が思う中、ウィッチの唱えた古代呪語は、部屋の床に大きな魔法陣を顕現させた。
 
「これは……転送魔法?」
 
 床の魔法陣を見ながら、ローズがそう呟く。彼はついさっきこの魔法陣で強制的にここに転送されてきたので、これに見覚えがあったのだ。
 
「ちょっとオイ、じゃあ一体どこに転送するつもり……」
 
 ユーリも魔法陣の意味に気づいてそう叫ぶ。その直後床一面に広がった魔法陣は強烈に輝いて、全員を部屋の家具も含めて問答無用に何処かへと転送してしまった。
 
 
◆◇◆◇
 
 
「はーい、皆ご到着ぅ!」
 
 強制転送が終わり、ローズたちはウィッチの底抜けに明るい声を聞きながらひたすら首を傾げていた。
 
「……ここ、どこ?」
 
 ぽかんと目の前の光景を見やるマヤが、そうポツリと呟く。彼女のその一言は、この場にいるウィッチ以外の全員が今思ってることだった。
 
「よーこそー! 実はこここそが僕が今回もミレイに無茶言って用意させた、今回の素敵なパーティーの会場だよぉ!」

 ローズたちの目の前には、かなり異様な光景が広がっている。
 地獄のごとき荒れた赤い荒野と山々が一帯には広がり、自分たちの目の前にはそれに酷く不釣合いな豪華な……
 
「城?」
 
 アーリィが目の前に建つ巨大な建造物を見上げながらそう呟く。傍でローズも「城だな」と頷いた。
 
 豪華な印象を与えながら下品にならない程度の華美に抑えられている外観の城は、柔らかい乳白色の外壁と真紅の鮮やかな屋根の色のコントラストが美しい。見れば見るほど、この地獄の荒野には似合わない清楚で綺麗な城だった。
 何故こんな荒野のど真ん中にこんないい感じの城が……いや、それ以前にここは一体どこなのかと全員が色々疑問に思う中、突如大きな城の門が重い音を立てて開き、中から全員がよく知った人物が出てきた。
 
「お待ちしておりました、ウィッチ様。……と、どうでもいいその他大勢」
 
 門を開けて全員を出迎えたのは、黒い給仕係の制服を着たミレイ。
 
「やっほーミレイ、お待たせぇ!」
 
「無事に転送出来たようで安心致しました」
 
 能天気に笑う主を曖昧な笑顔で迎えるミレイは、心なしやつれているようにも見えた。ウィッチ自身『無茶』と言っていたように、今回の謎パーティーでミレイはまたウィッチの無茶要求を気合と根性と愛で実現させたのだろう。ミレイはアンゲリクスの鏡だと、アーリィはちょっぴりミレイを尊敬したりしなかったり。
 
「ではウィッチ様とどうでもいいその他大勢、城の中へどうぞ。私が案内いたします」
 
 主にウィッチへ深く頭を下げ、ミレイは謎の城の中へと全員を案内する。
 何がなんだかよくわからないまま、とりあえずローズたちはミレイとご機嫌なウィッチの後に続いて、一緒に転送された家具はそのまま放置で城の中へと入っていった。
 
 
「……ねぇウィッチ、ここ本当にどこなのよ?」
 
 赤い絨毯が長く敷かれた城の廊下を歩きながら、いい加減ここがどこなのか知りたくなったマヤがウィッチへとそう声をかける。するとウィッチはご機嫌な笑顔のまま、こんなことをのたまった。
 
「正直僕にも詳しい事はよくわかんないんだよねー! ミレイがここを会場にって決めてくれたんだし!」
 
「なによそれ……頭痛いわ」
 
 何か聞けば聞くほど、知れば知るほど不安だけが増すパーティーに、マヤは始まる前から疲労で倒れそうになった。
 
「ま、リ・ディールのどこかではあるから大丈夫だよ、マヤ。心配しないでー」
 
「……だといいんだけど」
 
「ところでウィッチ、さっきの転送で一緒にここに運ばれてしまったうちのとこの家具とかちゃんと後で元に戻してくれるんだよね?」
 
「ジューザスもマヤみたいに心配性だなぁ。マヤはいいけど、君はうざいよ」
 
「そ、そう言わないで頼むよ……」
 
「はいはい、あれはこの後にでも元に戻しておくよ。……気が向いたらね」
 
「む、向いてくれ!」
 
 そんなこんなで話をしながらミレイの後に続いて城の中を進むと、ミレイは大理石の彫刻で精密に飾られた大きな扉の前で足を止める。
 
「ここが会場になります、ウィッチ様」
 
 ミレイはそう言うと、扉を大きく開け放つ。
 
「ではウィッチ様とその他大勢共、中へどうぞ」
 
 恭しく礼をしてそう言うミレイに従って、ウィッチを先頭にして謎パーティーに強制参加させられた皆は準備された広間の中へと次々に入っていった。
 
 
 
「で、結局これは何のパーティーなんだ?」
 
 ミレイに案内されて入った城の大広間は、煌びやかなシャンデリアが優しい光で照らす中、ウィッチが以前言っていた通りに様々な料理が用意されていた。
 
「もうそういうこと気にしても仕方ねーんじゃねーの、ローズ」
 
「そうか……?」
 
 広間に入ったローズは用意されていた料理に目を奪われながらも、どうにも目的がはっきりしないこのパーティーとやらに首を傾げる。
 
「それよりさ、せっかくだからめいっぱい飲み食いしとこうぜ。なんてったってタダなんだから」
 
 悩むローズに、料理を見たらテンションが上がって色々どうでもよくなったユーリがそう笑顔で声をかける。ローズは微妙な表情ながら、「それもそうか」と彼の言葉に頷いた。

「わー、すっげーうまそー!」
 
 たくさん用意されたテーブルの上に、それ以上にたくさん用意された料理を見てエルミラが嬉しそうに叫ぶ。そのままつまみ食いしそうな彼に、レイチェルがすかさず「ダメだよ!」と注意した。
 テーブルの上には調理された肉や魚、野菜や果物などの料理が豊富にならび、生クリームやフルーツが誘惑する甘いデザートが用意されたテーブルの前ではアーリィが目を輝かせていた。

「すごい……ケーキいっぱい……こんなに食べれるかな……」
 
「ね、すごいですね! これって自由に取って食べていいんですかね?!」
 
 今にもよだれ垂らしそうなアーリィの隣で、アゲハも期待に満ちた表情で様々な種類のケーキや生菓子を見ている。その近くでヒスとララが、少し離れた場所に用意されたテーブルと椅子を眺めながら話をしていた。
 
「あっちに一応座って食べれる席が用意されているみたいだな」
 
「で、酒はどこだよ?」
 
「いきなりそれか……本当に酒が好きだな、お前は」
 
 何よりもまず酒を捜すララに、ヒスは苦笑する。ララのそのお目当ての酒の行方を、広間に入って早速自由な行動を取り始めた一部の人たちは彼の知らぬ間に見つけていた。
 
 
 広間を出て少し歩いた場所に城の調理場があり、そこではミルフィーユ(無口バージョン)がミレイ同様ウィッチに馬車馬のごとくこき使われながら、黙々と料理人として働いていた。可愛いフリル付きのエプロン姿で。
 そしてその調理場から繋がった場所にあるワイン貯蔵庫で、勝手に進入した数人の参加者がかなり自由な行動を取っていた。
 
「わ、なにこれすごい! ここのワイン全部ヴィンテージものじゃない!」
 
 マヤが貯蔵庫に保管されているワインをざっと眺めながら、そう驚きの声をあげる。隣でレイリスも興味深そうに高級ワインを物色していた。
 
「ホント、高いワインばっかりね……この『シャルヴェーユ』の25年物とか凄い貴重よ? こっちのも……」
 
「趣味の悪い城でのくだらん悪ふざけのパーティーと思ったが、しかしこれは凄いな……これが飲めるのなら、まぁ……面倒だが今日の悪ふざけにも付き合ってやるか」
 
 何気に『勝手に貯蔵庫進入組』になってるマギが、珍しく感心した様子で揃えられた高級ワインを眺める。意外とこういうものに興味があるようだった。
 
「もしかしてこれを振舞うつもり? もったいないわね、酒ならなんでもいいような奴らにこんないいもの……」
 
 腕を組んで考えるマヤに、やはり同じく勝手に貯蔵庫に忍び込んだユトナが「ならこっそりくすねて売るってのはどうです?」と、悪い事を囁く。
 
「……良いわね、それ」
 
「あらー、得する悪巧みならあたしも全力でお手伝いするわよー」
 
「そういう下らん事には、俺は付き合わんぞ。面倒に巻き込むなよ」
 
 ユトナの悪い提案に、悪乗りする思考はよく似てるマヤとレイリスがノリノリの返事を返す。そうしてマギ以外の三人が早速ワインを強奪しようとした時、無口ミルフィーユが貯蔵庫に顔を出した。
 
「おい」
 
「きゃ! な、なによミルフィーユ! まだワインは盗んでないわよ!?」
 
 突然ミルフィーユに声をかけられ、マヤはワイン二本を両手に持ちながら余計な返事を口走る。彼女のその返事にミルフィーユは一瞬不審そうに繭を潜めたが、それ以上は気にせずに勝手な盗人三人とそうではない一人にこう声をかけた。
 
「もうすぐパーティーが始まるようだから、広間に戻ってくれ」
 
「あ、あぁ……わざわざどーも」
 
 何か調味料の瓶とフライパン持ったミルフィーユは、まだ調理途中だったらしい。そんな忙しい彼がわざわざお知らせしに来てくれたことを、ユトナは頭を下げて感謝する。だがその手はまだしっかり高級ワインを掴んでいた。
 
「そういえばあなた、今回の料理一人で作ってるのね」
 
 調理道具装備のミルフィーユに、レイリスがちょっと同情した様子でそう声をかける。ミルフィーユが無言無表情で頷くと、マギが笑いながら「あの小僧の為にご苦労なことだ」と皮肉を呟いた。
 
「ふ~ん、大変ね……ん?」
 
「どうしたの、女神サマ」
 
 ミルフィーユを見ながら何か気になる反応をしたマヤに、ユトナが声をかける。マヤはミルフィーユの手に持つ調味料の小瓶をじっと見つめ、何か考える様子でこう返事した。
 
「いや、ミルフィーユの持ってるその調味料……」
 
 マヤに指摘され、ミルフィーユは料理に使った為に中身が半分以上なくなっている小瓶に視線を落とす。彼は瓶のラベルを確認して、「ただの塩だが?」とマヤに返事した。
 
「そう……何かこう、ソレに魔法薬的な怪しい雰囲気を感じたんだけど……」
 
「気のせいじゃない? それよりもう戻りましょう?」
 
 レイリスがそう声をかけると、マヤは何か気になりながらも「わかった」と頷く。そうして四人はさり気なくワインを数本持ったまま、大人しく広間へと戻っていった。
 
「……さて、料理料理っと」

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MAGIC☆SALT☆PARTY 3


 

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