MAGIC☆SALT☆PARTY 4
2020.11.17
神化論のオールキャラギャグです。
▼アイキャッチがじわじわくる目次はこちら
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ウィッチの説明に、エルミラも「多分そういうことなんだろうね」と頷く。そして彼は「それにしてもなんで材料に混ざっちゃったんだろう」と不思議そうに呟いた。そしてそれを聞いて、すかさずミレイがこう答える。
「ヴァイゼスの廊下でヒスが拾い、私に渡したのだ」
「……」
ミレイのその言葉に、今度は今回の被害者たちの視線がヒスに集中する。というか、ヒスの姿をしたカナリティアに集中する。
「私はヒスじゃありませんよ、ヒスはこっちです」
カナリティアが訂正して自分の姿になったヒスを指差すと、ヒスは物凄く気まずそうな様子で視線を逸らした。
「そうかヒス……貴様の仕業か……」
「ちょ、まてレイリス……じゃないな、マギ! 俺はただ、廊下に落ちてたからミレイが落としたと思っただけで……! 俺だってただの塩だと思っていたんだ!」
自分は悪くないと主張するヒスに、マギはかまわず「切る」と武器を向けようとする。そのマギの暴走に、自分の体が切られると驚いたカナリティアが「マギ、それ私の体ですよ!」と注意した。だがマギは「かまわん!」と、カナリティアにとって迷惑極まりない返事を返す。
「や、やめてくださいよマギ!」
「そうだ、俺も勘違いだったんだし!」
「うるさい! こんなことになったせいで、俺は変態に体を奪われたんだ! 何か切らんと気がすまない!」
「と、とばっちりじゃないか!」
そんな感じでマギがとばっちりでヒスを切ろうとしたが、しかし。
「? カスパール?」
何故か自分の武器が出てこず、マギは呆然と立ち尽くす。そんなマギに、レイリスが楽しそうに笑いながらこう声をかけた。
「ざぁ~んねん、マギ。あたしの体じゃカスパールは扱えないようね」
「なっ……!」
嫌味な笑顔を見せるレイリスは、挑発するように自分の手にカスパールを召喚してみせる。マギはそれを見て、衝撃に目を見開いた。
まぁ冷静に考えればわかる事だが、体が変わったせいでカスパールはマギじゃなくてレイリスに一時的に所有権が移っちゃったらしい。
「き、貴様……俺の体だけじゃなく、武器までも奪いやがって……っ!」
そう怒りに震えるマギだが、弱体化したマギとは反対に大幅にパワーアップした魔王レイリスは余裕の笑顔で彼の怒りを無視する。
しかしこの問題はマギだけじゃなく、他にも大多数が自分の体じゃない為に武器が扱えなかったり戦えなくなってしまっていた。
「そういえば私もシャルルが操れなくて困ってます。ヒスの体で今の私にできることは、怪我した皆さんを包帯でぐるぐる巻きにすることくらいですね」
「俺は普段そんなことしてないだろう、カナリティア!」
「わ、私もメルキオールが使えないって事かな? ……まぁ、それ以上にエレの体はそれだけで凶器だから強いんだろうけど」
「私もリーリエさんの体じゃ戦えませんー! 怪我しちゃったら責任もとれないし……」
ローズもユーリの体になってしまたので、「俺も魔法とあの大剣は使えないな」と呟く。
「ってことはローズ、俺は逆に魔法使えるってことか!?」
「ど、どうなんだろう……でも危ないから止めといた方がいいと思うぞ」
何か期待する眼差しの自分……じゃなくてユーリを見て、ローズは苦笑する。一方でローズに止められたユーリはつまらなそうに唇を尖らせた。
「ま、とにかく今は責任の所在は後回しよ。それよりも今は元に戻ることが先決でしょう?」
マヤの冷静な意見に、被害者たちは納得する。そしてヒスとエルミラはほっと胸を撫で下ろした。
「元にか……どうすればいいんだろうな」
ローズが困ったようにそう呟くと、ジューザスが「やはり薬を作った人に解決方法を聞くべきでは?」と意見を述べる。
「と、言う事は……」
マヤの視線がエルミラに向く。他のものたちの視線も再び彼に集まり、エルミラはまた居心地悪そうな顔をした。
「こうなっちゃう薬を作ったからには、元に戻す薬も勿論あるのよね?」
「うぅ~……そういうプレッシャーかかる言い方しないでよ……一応、あるにはあるけど……」
エルミラのその返事に、一先ず入れ替わってしまった人々は安堵する。一人レイリスだけは「えー」とか不満げな声をあげていたが。
「あるなら今すぐそれを俺によこせ!」
今すぐにでも肉体を取り戻したいマギは、そう言ってエルミラに詰め寄る。しかしエルミラは「で、でも問題があって!」と、何かまた嫌な予感のするフラグを立てた。
「なんだ、問題ってのは。一応聞いてやる」
レイリスの姿になっても、マギの放つ禍々しいオーラは変わらず怖い。エルミラは「言うから殺さないで!」と懇願してから、こう説明を始めた。
「じ、実は元に戻る為の薬自体はあるんだけど、それを作る材料がすごく手に入りづらいものばっかだから、まだ一個しか薬は作れてないんだ……だから今すぐ全員を元に戻すってのはちょっと難しいっていうか……」
「な、なによそれ……」
予想外の返事をされて、マヤはひどく困惑した表情となる。エルミラは「だって仕方ないんだよー」と、マヤたちに訴えた。
「元に戻る薬を作るには火竜の鱗と水竜の牙と高純度マナ水が必要で……」
「……たしかにちょっと普通では手に入らない材料ばかりが必要だねぇ」
エルミラの話を聞き、ウィッチが納得したように頷く。しかしすかさずマヤが「でも手に入らないわけでもないわ」と言った。
「えーっと、鱗と牙は竜倒せば手に入るだろー。高純度マナ水ってのは……」
ユーリがそう言って考えると、ミレイが「マナが比較的濃い場所の水源で手に入ることもある」と言う。
「じゃあこうなったら、材料を手に入れて薬を今すぐ作ってもらうしかないな」
ローズがそう皆に向けて言うと、マヤも「そうするしかないかしらね」と彼の言葉に頷いた。
「えー、なにそれー。じゃあ僕の企画したパーティーはぁ?」
「とりあえずはお開きでしょ。こんなことになっちゃったんだから仕方ないわよ」
「ぶーぶー!」
子供のように不満を訴えるウィッチは無視して、マヤは全員と共にこれからの行動予定を確認することにした。
「それじゃみんな、そのままの姿でいたくなかったら手分けして材料を手に入れに行きましょう」
マヤのその呼びかけに、大半の被害者たちは素直に頷く。そういうわけで彼らは自分の体を取り戻す為、一致団結して入手困難な材料を手に入れることとなった。
「えーっと、じゃあ確認するが……」
ミレイがどっかから持ってきて用意したホワイトボードに、ローズがたった今話し合いで決めた内容を確認しながらマーカーで記述していく。
「メローサ湖にいる水竜から牙を取ってくるメンバーは、俺とマヤとジューザスとエレスティンとヒスとカナリティアだったよな」
「エルドーラ火山へ行って火竜から鱗はがしてくるメンバーは、ユーリとアーリィとマギとレイリスとクロウとユトナね」
ローズの確認に続けてマヤがそう言うと、ローズが彼女の言ったメンバーをホワイトボードへ書き足す。書きながら彼は言葉を続けた。
「で、ツィエルド洞窟の高純度マナ水採取担当は、ウィッチとミレイとエルミラとレイチェルとアゲハとリーリエ……か」
「ぶー、なんで僕まで働かなきゃいけないのさー。マジ意味わかんない。ミレイもなんか勝手にメンバーに組み込まれてるしぃ」
今回は本当に何も迷惑なことしてないウィッチは、自分たちまで無駄働きさせられることに大変ご不満のようでぶーぶー文句を言い続けている。マヤはそんな彼を見て、呆れた様子でこう声をかけた。
「仕方ないでしょ。今回のことで皆戦力ダウンしちゃったんだから。まともに戦えるのってアタシとアーリィとあんたたちくらいなのよ?」
体が変わったことで戦力にならない(かもしれない)人がほとんどとなったこの状況では、まともに戦えるのならウィッチも数に入れないと間に合わないのだ。
「タダ働きとか超萎える」
「じゃあほらウィッチ、この飴あげるから働け。すごいわよこれ、メロンソーダ味」
「わーい、僕メロンソーダ大好きー! ……ってマヤ、僕飴で喜ぶほど子供じゃないんだけど。なんか馬鹿にしてる?」
そうは言いながらもウィッチはマヤから飴を受け取り、「まー、マヤがどうしてもって言うならやるけど」と言って一応今回のことを了承した。
「ミルフィーユはここでお留守番。……しかし一応バランスを取ったとはいえ、どうにもどこも不安が残るメンバー編成になっちゃったわねぇ」
「まぁ仕方ないさ」
マヤのため息交じりの言葉に、ローズが苦笑しながら返事をする。自分を含め、果たしてこの体で戦えるのか疑問だったが、しかし元の姿に戻る為にはやるしかないのだ。
「でもさー、普段から戦力外のオレたちまでメンバーに入れるってやっぱどーかと思うんだけどー」
レイチェルの姿になったエルミラは椅子にだらしなく腰掛け、ビスケットをぼりぼり食べながらそう意見する。彼のそのだらしない格好に、レイチェルが「エル兄、僕の姿でそういうだらしない格好やめてよね」と注意した。
「はいはい、全くレイチェルはオレの姿になっても年中無休できびしーんだから。……で、どうなの? やっぱさぁ、オレとかは大人しくここで待ってたほうがいーと思うんだけど」
「でもねぇ……本当に人足りなくて困ってるからなー。いいじゃない、元から戦うの専門じゃない人たちはおつよーいウィッチのグループに分けたんだし。大丈夫だから頑張ってよ!」
マヤのすごい他人事な言葉に、エルミラは「うげぇー」と嫌そうな顔を返す。しかしマヤの脳内で決定事項となったことはもうどうなっても覆らないので、やはりエルミラも諦めるしかなかった。
「それじゃあ早速皆、材料を取りに行くわよ!」
行き先もメンバーも決まったというわけで、早速出発しようとマヤが気合を入れて叫ぶ。が、しかし。
「待ってください! さすがにこの格好では、移動とかしにくいんじゃないかしら?」
ジューザス、ではなく彼の姿をしたエレスティンがそう叫んでマヤを止める。彼女は「ほら、私たちみんなこんな格好だし」と自分の正装姿を指差して言った。
「確かにな……皆ドレスかタキシードだもんな」
ローズが納得したように頷く。これじゃ動きにくいことこの上ないし、「まずは服を着替えるべきだな」と彼は言った。そしてこの一言に、また被害者たちが困惑する。
「あ、あああ、ちょ、ちょっと待って!? 言い出したのは私ですが、ここ、この体で着替えをするんですか!?」
ジューザスの体になってしまったエレスティンが、真っ赤な顔でそう動揺しながらまた叫ぶ。逆にエレスティンの体になってしまったジューザスも、その意味に気がついて激しくうろたえた。
「え、エレの体で着替える事は出来ないよ……うん。無理だよね、さすがにこう……交換相手が異性になってしまうと」
動揺しながらジューザスがそう呟くと、傍で鋼の心のカナリティアが真顔でこう返事を返す。
「いいじゃないですか、着替えちゃえば。せっかくいい服を買ったのに汚してしまうのは良くないですよ。私はヒスの体でも着替えられますよ? ヒスも遠慮なく着替えてください。後々『私の裸見ましたね、このロリペド野郎』なんて罵る事はしませんから」
「罵る気満々じゃないか! お、俺は着替えないからな! お前もその……出来れば着替えないで、くれ……」
幼女ヒスが青ざめた顔色でそう返事を返すも、やっぱりカナリティアはヒスの体で着替える気満々な顔をしていた。迷惑なくらい強い幼女である。
そして他の被害者たちも、この新たな問題に互いの肉体交換者と顔を見合わせた。
「俺とローズは別にいいよなぁ?」
「そ、そうだな。着替えても平気だな」
「オレとレイチェルもいいよなー? よゆーで着替えられる」
「そうだね。別に何も恥ずかしいことないね、エル兄」
「私とリーリエさんも着替えられますよね!」
「え、ええぇ!? アゲハ、あの……でもわたし、はずかし……」
「おおおぉ……こんなことなら俺も女の子と体交換したかった……そうすりゃ合法的(?)に裸見放題だったのに……なのによりによっておっさんって、なんの嫌がらせよコレ……俺が、俺が一体何をしたって言うんだ……っ!」
「おーいユトナ、聞こえてるぞー。誰がオッサンだ、誰が。クロウさんと言いやがれ」
異性と体を交換してしまった人たち以外は、大体はまぁ着替えるくらいなら大丈夫かという結論に至る。
だが一組だけ、やっぱり揉めていた。
「よっしゃ、着替えね! はいはーい、あたしメイド服着たい! ミニスカートのやつね! あ、バニーガールの格好でもいいわよ! この姿ならなんでも着れるわ!」
「レイリス貴様ぁ~! ふざけた服着たらぶっ殺すぞ!」
「マギさん? あなたこそ言葉と態度に気をつけるべきではなくて? ……今のあたしの機嫌損ねたら、あなたの体がどうなっちゃうかわかってんでしょうね」
「ぐっ……!」
レイリスは冷めた眼差しで「自分の体を清いまま返してほしかったら、あたしの機嫌を損ねないよう努力する事ね」と、本当に怖いことをのたまう。
「ねぇ嫌でしょう? 自分の体が貫通済みで返ってきたりなんかしたら……あんたみたいなのって、あなたの知らない世界じゃわりと需要あるのよ? ねぇマギ、恐怖が足りないようならもっと詳しく教えてあげましょうか?」
「ややや、やめ……やめろ本当に! 聞かせるな! くそ、俺が悪かったから本当にそれだけは止めろ!」
あのマギでさえ怯えるような本当に怖い話をぞっとする笑顔で語るレイリスに、その意味を理解できた男共は『あの悪魔にだけは体とられなくて本当によかった』と心からそう思った。
「……ところでユーリ、貫通済みってなんだ?」
「ローズ君、世の中には知らない方が幸せになれることってたくさんあるんだぜ? つか俺も語りたくはねぇから聞くな! お前はそのまま純真無垢なローズでいなさい!」
「? わかった」
ユーリの言葉に素直に頷くローズを見て、『いつかこいつにレイリスの言った貫通済みの意味を教えてやろうゲヘヘ』と悪い事考えながら、マヤが腕を組みながらこう言う。
「ま、なんにせよ着替えね。でも着替えるには一旦宿に戻らないとダメよね」
「げっ、そうだよなー。めんどくせー」
いちいち宿に戻って服を着替えなきゃいけないことを思い出し、ユーリは露骨に嫌そうな顔をする。ヴァイゼスの者たちも似たような手間で着替えをしなきゃいけないので、「確かに面倒だよな」とララがユーリの意見に頷いた。
「あ、じゃあさー、なんかいい感じの服を今用意してあげよーか?」
唐突にウィッチがそんな事を言い、マヤは「用意?」と首を傾げる。するとウィッチは可愛い笑顔で「そう、いい感じの服!」と返事をした。
「マヤが『ウィッチお兄ちゃん大好き!』って言ってくれたら、ここで着替えられるように今すぐ代わりの服を用意してあげるよ!」
またわけわかんねーこと言いやがったなこいつ、とか思いながら、マヤは「はいはい、おにいちゃんダイスキ」と棒読みに言う。求めていたものとだいぶかけ離れた彼女のその言い方に、ウィッチは心底不満そうに「なんかそれ、違う……」と頬を膨らませた。
「違うって何よ。いいから約束どおり言ったんだから用意しなさいよ、服」
「ぶううぅ~……わかったよぅ。ミレイ!」
マヤに返事をしたウィッチは皆が『やっぱりミレイを使うのか』と思う中、すでに今の状況に飽きたのか暢気にアーリィと二人でお喋りしているミレイを呼んだ。
ところが。
「……で、ウィッチ様はお前より背が低い事を気にして毎日こっそり怪しい通販商品で背を伸ばす空しい努力をしているんだ」
「ふぅん……背なんて身長促進する溶液入った培養槽に一週間くらい入っとけば、たけのこみたいにぐんぐん伸びると思うんだけど」
「私は以前『身長伸ばす厚底の拡張パーツを足に取り付けてはいかがですか?』って、もっと手っ取り早いアドバイスをしてあげたんだが無視された」
「……気を落とさないで、そういうこともある」
「私のアドバイスの何がいけなかったのだろう……」
「まぁ、マスターたちってわりと気難しいとこもあるから。アドバイスされるのは好きじゃなかったのかもしれない。……そうだ、今度はあいつが寝てる時にこっそりと、この私が開発した植物成長促進魔法薬『アットイウマニグングンノビール』をかけてみたら? これをかけたらきゅうりとかナスとかすごい勢いで成長して大変 な事になるって、悲鳴が出るくらい農家の人に大評判なの」
「ウィッチ様はきゅうりやナスではないぞ」
「きっと人でも効果ある……と、思う」
「そうか……ありがとう、じゃあそれを今度かけてあげようと思う。ウィッチ様、喜んでくれるだろうか?」
「人では効果は試してない薬だけど、多分背が止まらなくなるくらいどんどん伸びる(予定)。10メートルなんてあっという間だから、きっと喜んでくれる(かもしれない)」
「10メートルはすごいな、ウィッチ様が10メートル……ま、まて、それは怖いかもしれない」
「何事もチャレンジが大事。10メートルも、実際見たら意外といいかもしれない」
「そ、そうか……?」
「……」
何かアーリィとの話に夢中で自分の呼びかけに気づいてないミレイに、ウィッチはものっそい不機嫌になる。というか、話の内容が自分に対して何か物騒過ぎてヤバイ予感がする。奴らは至極真面目にそんな話をしているから、なおたちが悪い。
ウィッチは自分を無視して危ない薬を自分に使用しようとするミレイに、絶対に反応する恐ろしい呪文を囁きかけた。
「……廃棄処分」
「!?」
ミレイにとって死に等しい恐ろしいウィッチの呟きに、ミレイは蒼白な顔色になって慌ててウィッチの元へ走る。
「は、廃棄だけは! 鉄くず回収業者に私の体を売らないで下さい!」
「だったら僕を無視しないでよね」
「すみませんウィッチ様! 無視したつもりはないのです!」
可哀想なミレイは必死に頭を下げた後、「それで私に何か命令でしょうか?」とウィッチへ聞く。
「うん、今すぐ服をいっぱい用意して。大至急お願いね」
「……了解です」
もうちょっとやそっとの無茶命令じゃ動じないよく訓練されたミレイは、ウィッチに返事をするとすぐさま服を調達しに何処かへと駆け出す。
そしてものの一分も経たないうちに、ミレイは大量のダンボールを抱えてまた広間へと戻ってきた。本当によく訓練された下僕……いや、従者である。
「お待たせしましたウィッチ様、ご要望の『服』です」
「ありがとー、ミレイ。さすがだね、やっぱり僕にはミレイが必要だよ」
飴と鞭を使い分けるウィッチの笑顔に、ミレイはデレデレな様子で「ありがとうございます」と言った。
なんだか見てる方が気の毒になるミレイだが、本人が幸せならそれでいいのかもしれないと思いつつ、マヤはミレイが調達してきた服を確認する。するとユーリも興味津々で彼女の傍にやって来た。
「なになに、どんな服だ?」
「えーっとね……って、何これ……」
ミレイが持ってきたダンボール箱を開けたマヤは、その中に詰まっていた”服”を見て眉根を寄せる。彼女のその怪訝な反応に、ユーリは「どうした?」と言って彼女と共にダンボールの中を覗く。そうして彼も、マヤと同じような反応をした。
「なんだこりゃ……」
ユーリがダンボール箱の中から服を一枚取り出してみる。それはやたらフリルの多い、白と黒のなんとも可愛いデザインの女性服。
「メイド服か、コレ?」
自分が手に持った服を見て、首を傾げたままユーリがそう呟く。そう、それは確かにメイド服だった。
「こっちはブレザーの学生服よ? やだ、なんでウサギの着ぐるみとかあるわけ? 可愛いけど、ドレスより動きにくいじゃない」
マヤも次々ダンボールの中身を出していき、そこから出てくる妙な服の数々に全員また嫌な予感を感じた。
「ミレイ、これはどういうことなの?」
ダンボール箱の中の不可解な状況に、マヤはミレイを問いただす。するとミレイはいつものクールな無表情で、彼女にこう答えた。
「大至急用意しろと言う命令だったので、大至急用意できる服を持ってきただけだ。早さを優先した結果こうなった」
「大至急でこんなマニアックな服ばっか用意できるってどうなんだよ」
ユーリのツッコミは無視して、ミレイは「どうでしょう、ウィッチ様」とウィッチに向き直る。
「あんな感じでよろしかったでしょうか?」
「うん、いいんじゃない? なんか楽しそうだし!」
自分は着替えなくてもどうでもいいので、完全に他人事なウィッチは笑顔でミレイへとそう返事をする。そうして彼は皆の方を向き、彼らに聞いた。
「で、どうするの皆? これ、着替えるの? 着替えないの? それともまさかいちいちこの場所離れて着替えに行くとか、そんな時間の無駄な選択する気じゃないよね?」
ウィッチの愛らしくも悪意満載の笑顔の問いかけに、マヤたちは苦い表情となる。
「……どうする?」
「どうするってマヤお前……アレだろ、レンタルした服で暴れるよりかは着替えた方がいーんじゃねーの?」
「俺もそう思うぞ」
ユーリやローズの意見を聞き、マヤは「そうよね」と納得する。ドレス汚すよりは、恥を忍んでコスプレするほうが……いいような、そうでないような。
しかし結局は致し方ないと、他の者たちも無理矢理自分を納得させるしかなかった。……それでも納得できない者たちも当然いたが。
「じゃあみんな、ちゃっちゃと服選んで着替えちゃってよね。君たちが着替えてる間に、僕は転送の準備しておくから。はい、制限時間は三十分ね!」
ウィッチのその言葉を合図に、皆は渋々といった様子でミレイが用意した衣装で、自分が着替えるものを選び始める。しかしやはり、どれもこれも一癖ある衣装ばかりで皆は戸惑った。
「う~ん……どうしようかしら。ねぇローズ、アタシって何がいいと思う?」
「おいマヤ、だから俺はユーリだって」
「あぁそっか。……ホントややこしいわね。もう、早いとこ元に戻ってもらわないとこっちもいい迷惑よ! ああもう、どうせ皆変な衣装なんだからこの際どれでもいいわ!」
マヤはそう叫びながら傍にあった衣装を適当に引っつかんで立ち上がる。
「ほら、あんたたちもいつまでも悩んでないではやく着替えちゃいなさいよね! んで、さくっと必要素材取りに行くの! いいわね?!」
「え、あ、あぁ……」
「けどマヤ、お前その衣装……」
ローズとユーリが何か言いたそうな表情でマヤを見るも、(適当に)衣装を決めた彼女はさっさと着替えに向かってしまう。彼女の後姿を、ローズとユーリは呆気に取られた様子で見送った。
「……おいローズ、マヤの持ってったあの服ってバニーガールだったよな?」
「あ、あぁ……マヤ、本当にアレでよかったのか?」
マヤはこれからローズらと共に、わりと寒い場所に向かう予定。
「風邪引かなきゃいいんだけど、マヤ……」
心配したローズの呟きは、当然立ち去ったマヤには届かなかった。
「おいヒス、あの変態……レイリスを見なかったか?!」
「マギ、私はこう見えてカナリティアですよ。さっき教えたじゃないですか」
「なんでもいい、いいからレイリスがどこ行ったか知ってたら答えろ!」
大半の者たちが服を着替える為にミレイが用意した衣装を選んでいる頃、姿の見えなくなったレイリスに不安を感じたマギが必死に彼を捜していた。
自分の身の危険をひしひし感じながら、彼はレイリスを捜して人々に声をかけて歩く。彼に声をかけられたカナリティアは、「そういえば」と思い出しながら彼にこう返事をした。
「レイリスでしたらさっきメイド服持ってどこかに走っていきましたよ。あんなに楽しそうな顔のあなた、私初めて見ました」
「あ、んのクソ変態やろう~!」
怒りに血管ブチ切れそうになりながら、マギは「どっかって、どこに走っていた?!」とカナリティアに問いただす。しかしカナリティアは「さぁ」と、やる気ない返事を返すだけだった。
「貴様、真面目に答えろ! 俺の色々大切なものが懸かってるんだよ!」
「知りませんよ、そんなの。それよりもマギ、どうせ今のあなたではレイリスを力ずくで止めることなんて出来ないんですから、あなたもレイリスに対抗して今の姿でメイド服を着てみたらどうでしょう? その方がレイリスに対して効果があると私は思うんですけど」
「なに!?」
カナリティアのまさかのアドバイスに、マギは「馬鹿なことを言うな!」と一蹴する。自らそんな服を着るなど、たとえ姿が別人だろうと彼のプライドがそれを許さなかったのだ。
だがカナリティアはヒスの顔で、何か企む嫌な笑顔をする。そうして彼女は悪魔の囁きを行った。
「レイリスは普段あんなキャラですけど、でも女装するのは実はすっごく嫌なようです。そんな彼が今回、あなたの姿では率先してメイド服を着ると言い出しました。……つまり彼もあなたと同じで、自分の姿で妙な格好されるのは嫌なのですよ。ですから……」
普段だったらカナリティアのこんな話になど『くだらん』とでも言って耳を傾けないマギだが、しかし追い詰められた状況の彼は違った。彼は何か迷う様子で、彼女の言葉に耳を傾けていたのだ。それほど今の彼には精神的に余裕が無かった。
「目には目を、ですよマギ。いいじゃないですか、今のあなたはあなたじゃないんですから。メイド服を着ようがセーラー服を着ようが、今のあなたはレイリスなんですからあなた自身に何も問題ありませんよ」
「し、しかし……っ!」
カナリティアの悪魔の囁きに、マギの中のとんでもなく高いプライドが最後の迷いを生む。だが次の彼女の言葉で、その迷いも結局……
「大体今もドレス着てるじゃないですか、マギ」
「!?」
何かもうどうでもいい感じに吹っ切れたマギは、「くっくっく……はは、は……」と虚ろに笑ってカナリティアに背を向ける。
「マギ?」
「……目には目を、か。ふふ……待っていろレイリス……貴様にも俺と同じ苦痛を味わわせてやる……!」
カナリティアのアドバイスで、マギは見事に間違った復讐へと走っちゃったらしい。虚ろな笑い声と共にそう呟きながら、彼はカナリティアの元を去っていく。
カナリティアが何か感心した様子でそんな彼を見送っていると、ヒスが彼女へ近づいてきた。
「カナリティア、そんなところでボーっとしてどうしたんだ?」
「いえ……心に余裕がなくなると、マギでもあんなことになっちゃうんだなぁと、そう思いまして」
「は?」
「何でもないです。ところでヒス、私もメイド服着ていいでしょうか?」
「止めろ!」
◇◆◇◆◇◆
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