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MAGIC☆SALT☆PARTY 6

2020.11.17

神化論のオールキャラギャグです。

▼アイキャッチがじわじわくる目次はこちら

MAGIC☆SALT☆PARTY 1


MAGIC☆SALT☆PARTY 2


MAGIC☆SALT☆PARTY 3


MAGIC☆SALT☆PARTY 4


MAGIC☆SALT☆PARTY 5



———————————————–

 顔色悪くして怯えるリーリエに、皆の不安の元凶であるウィッチが胸を張りながらそう言う。『だから皆はお前が怖くて不安になってるんだよ。気づけボケ』とは、この場の誰もがツッコむことが出来なかった。
 
「と、とにかく中に入ってみましょうよ、皆さん! ここにある水を持って帰らないといけないんだし! 大丈夫、きっとうまくいきますよ!」
 
 不安で微妙に暗くなった場の雰囲気を変える為にか、アゲハが健気な元気さでそう皆に声をかける。そんな彼女を見て、エルミラは「アゲハがいてくれてよかったかも」と呟いた。
 
「彼女がいなかったらこのメンバーは多分初っ端から絶望的な雰囲気になっていたと思うよ」
 
「……ふふ、ですよね……だってわたしみたいな疫病神もいるんですし……ふふふ、ふふっ……」
 
 リーリエの人を呪う様な呟きに背筋を凍らせながら、エルミラはウィッチへ「そ、それじゃ入ろう、神サマ」と声をかける。
 
「神サマが先頭でどーぞ、オレたちはその後をついていきますんで」
 
「ん、わかった。じゃあはぐれないようちゃんとついてきてね。はぐれても僕、そのまま放置して先行くからさ」
 
 ウィッチの本気のその発言に、エルミラはマジ顔で皆に注意を叫ぶ。
 
「おい皆、絶対はぐれるなよ! マジでこの神サマは、たとえオレらが迷子になってもオレたちのことなんてこれっぽっちも心配せず先に進む気だから!」
 
 そんなわけで、ウィッチたちはまず求める水がある洞窟の奥へと進んでみることにした。
 
 
 
 
◇◆◇◆◇◆
 
 
 
 
 湖に着いたはいいが、この後どうすればいいのかわからず途方にくれる水竜の牙担当組。
 
「そうだ、とりあえず誰かこの湖の中に潜って竜がいるのか確認しに行ったらどうでしょう?」
 
 カナリティアは何か閃いた表情で、全くもって無茶なことを平然と提案する。
 
「だ、誰かって、誰がよ……」
 
 エレスティンがそう無茶を言うカナリティアに聞くと、カナリティアは「泳げる人ですかね?」と小首を傾げながら言った。
 
「ちなみに私は泳げないので無理です。浮き輪がないと何も出来ません」
 
「泳げたとしても、あなたの提案は色々と無理よ」
 
 マヤが真顔でそうカナリティアの無茶を却下すると、カナリティアはとても残念そうに「そうですか……」と呟いた。どうやらわりと本気の提案だったらしい。
 
「んー……じゃあさ、ちょっと派手目に暴れて誘き寄せるってのはどーよ」
 
 カナリティアに続き、今度はアイフェがそう提案をする。
 
「暴れる?」
 
 ローズが首を傾げると、アイフェは「そうそう、暴れるの」と頷いた。
 
「あまりいい案では無さそうな予感がするけど、でも一応話くらいは聞いてあげるわ。それってどういうことなの?」
 
「うわぉ……マヤちゃんは相変わらず厳しいよな。ええっとですね、つまりとっても簡単なことでして、この湖に滅茶苦茶に呪術ぶっ放して水竜怒らせておびき出すという作戦をオレはご提案したわけです」
 
「……怒らす、ね」
 
 確かに簡単そうだが、後々が非常に面倒くさそうなことになりそうなアイフェの作戦に、皆はちょっと難色を示す表情となる。
 
「お、怒らせてしまって大丈夫なのかい?」
 
 ジューザスが思わず不安げにそうアイフェへ問うと、アイフェはいつもの能天気な笑顔で「いや、大丈夫かどうかはオレもわかんねーな」と無責任を堂々と言い放った。
 
「おいおい、なんだか凄く不安な作戦じゃないか……」
 
 ヒスが心底嫌そうな顔をし、エレスティンも彼に同意して頷く。
 
「そうよね……それもやめたほうがいいと私は思いますけど」
 
「じゃあやっぱり泳ぐべきですよ!」
 
「それだけは絶対に無いわ」
 
 このクソ寒い中で水の中に飛び込むのだけは避けたいので、マヤは「他にいい案思いつかないし、アイフェの作戦試すだけ試してみましょうか」と呟く。
 
「マヤ、本気か?」
 
 心配するローズに、マヤは先ほどより青ざめた顔色でこう返事した。
 
「だって寒いんだもん! 何でもいいから可能性あるなら試して、早く手に入れるもの手に入れて帰りたいのよ!」
 
「あ、あぁ……」
 
 寒いのはローズも、そしてもっと言えば皆同じだ。早く帰りたい気持ちも同じではある。
 一番格好がアレなマヤが切実に訴えるので、これはもうアイフェの危険な予感のする作戦を試してみるしかなくなった。
 
「じゃ、じゃあやってみるか……」
 
「はいはーい、呪術ぶっ放すのはオレ様にまかせてー! 今なんかすっごい頑張りたい気分だから!」
 
 アイフェが張り切った様子でそう手を上げながら言う。マヤはとくに何も考えずに「いいわよ」と、彼に大暴れの許可を出した。いつも冷静な彼女らしくないその判断は、きっととにかく寒いからだろう。
 
「よーし、そんじゃ皆様安全の為に後ろに下がって下がってー。行くぞー」
 
 無駄に張り切るアイフェの姿に、ローズは凄く嫌な予感を感じる。しかしアイフェを止める勇気が、今のローズには無かった。
 やがて皆が後ろに下がったのを確認し、アイフェは湖の前に立ち木の杖を掲げる。そうして彼はしんと静まり返った中で、レイスタングを唱えた。
 
『FINEESMSSAOKWWQNHSUOI-ASSKASJDDS.』
 
◇◆◇◆◇◆
 
 
 
 
 その頃火竜の鱗を剥がしてくる組は、何となく迷子になっていた。
 
「おい性悪、一体ここどこだよ。五秒以内に答えるか死ねよ」
 
「あたしに聞かないでよ、クソガキ。てめぇこそ今すぐ首吊って死ね」
 
 歩いても歩いても、一向の先には赤茶けた岩が延々面なる道が続く。
 何となく山頂へ向かっているような気がしないでもないが、それにしても似たような風景ばかりが続く道をただひたすら歩いている為、彼らは段々焦りと苛立ちで嫌なムードとなっていた。
 
「大体なんで俺たちがこんな面倒なことを……これも全部あの赤毛バカが変な薬作ったからだよなー、くっそ」
 
 エルミラに対してそう苛立ちを呟きながら、ユトナは周囲を見渡す。だがどこにも竜の姿はないし、気配すら今は感じられない。
 
「文句言っても仕方ないだろ、今は歩いて竜探すしかねぇ」
 
「それはそうっスけどー……」
 
 ララの励ましに、しかしユトナはダルそうな様子は変わらず面倒くさそうに歩みを進める。その時彼は何か閃いた表情となって、「あ、そーだ!」と言ってレイリスに近づいた。
 
「ねーレイリスさん」
 
「なに?」
 
 ユトナに声をかけられ、カスパールを肩に担いだレイリスは返事をする。ユトナは彼にこんな提案を言った。
 
「レイリスさん、カスパールでちょっと飛んで竜探してきてくださいよ。空から探すほうが早いって、絶対」
 
「えぇ?」
 
 ユトナの突然の提案に、レイリスはあからさまに嫌そうな顔をする。
 確かにカスパールを使えば飛行も可能だが……。
 
「絶対いや」
 
「えー、なんでですか?」
 
 不満げな反応を返すユトナに対し、レイリスは「とにかくいやなの」と頑なに彼の提案を拒否する。そして傍で自分が嫌がる事情を知るララがニヤニヤしているのに気づき、レイリスは彼に向けてカスパールを鎌の形状のままぶん投げた。
 
「うおっ、あぶねっ!」
 
「ぎゃああああぁっ!」
 
 カスパールをぎりぎり回避したララと、自分の体が危うく真っ二つにされるところだったユトナが同時に叫ぶ。一方でレイリスは「ちっ、外したか」とマジ顔で残念そうに言った。
 
「レイリス、てめぇマジであぶねーだろうが!」
 
「れれ、レイリスさん、俺(の体)を殺す気ですか!」
 
「ごめん、なんか今瞬間的にクロウにイラっとしちゃってね、つい。イラっとした時に手元に丁度カスパールがあったら、普通投げちゃうでしょう?」
 
 マギの体になったことでなにか明らかに凶悪性が増したレイリスに、ララとユトナは怯える。そしてはやくこいつを元に戻そうと、彼らは胸に誓った。
 
「……でも、空か……それで探せたら便利だよなー」
 
 ユトナの話を聞いていたユーリが、そうポツリと呟く。彼もいい加減歩くのに飽きていたので、さっさと竜見つけて手に入れるもの手に入れて帰りたいので、思わずそんな呟きを漏らしたのだった。そしてそれを聞き、アーリィが反応する。
 
「ユーリ、空から探してほしい? 私、ユーリがしてほしいのなら、それしてくるよ?」
 
「え? あ、そうか……アーリィちゃん飛べるんだよな」
 
 アーリィは何かユーリの役に立ちたいらしく、目を輝かせてユーリを見つめる。たとえ見た目はローズでも、しかしやはりアーリィの目には彼は大好きなユーリに映っているのだ。その健気に可愛いアーリィの姿を目撃し、ユトナは悲しい劣等感でユーリに対する憎しみを募らせた。
 
「くそ、あのモテ男ムカつくから頭から爆発しねぇかな……」
 
「童貞がひがむのは見苦しいわよ~、ユトナ」
 
「だから童貞じゃねーっつの!」
 
 ユトナがレイリスにからかわれている間に、ユーリはアーリィに「いや、でもアーリィちゃん一人じゃ危ないから」と返事をする。途端にアーリィはしょんぼりと肩を落とし、寂しそうに俯いた。
 
「でも、私……ユーリの役に立ちたいから……」
 
「アーリィちゃん……」
 
 健気なアーリィにユーリは胸を熱くさせ、「そんなに俺のことを想って……!」と感動のあまり彼はアーリィに抱きつこうとする。だがそんな彼を背後からこの人物が押しのけ、感極まったようにアーリィの両手を握った。ちなみに押しのけられたユーリはアーリィに抱きつくことは叶わず、「ぎゃあ!」とか可哀想な悲鳴をあげて地面にぶっ倒れた。
 
「素晴らしい! 愛する者の為に奉仕したいというその心! あぁ、私も愛しいレイリスのためならば何でもしてあげたいと思います! あなたのその気持ちがよ~くわかりますよ!」
 
「へ……? あ、あの……」
 
 感動した様子でアーリィの両手を握ったのはラプラだ。困惑するアーリィを置いてきぼりに、彼は自己陶酔しながら愛の素晴らしさをひたすらに語った。
 
「愛とは時に人を狂わす程に、強烈に作用する諸刃の刃……しかし本来それは尊く崇高な感情であると私は信じています。この私の中に宿る愛の気持ちもまたそれと同じで……」
 
「あ、あの、えっと……だ、誰か助けて……」
 
 ラプラの一人暴走に、アーリィが心底困った様子で助けを求める。するとウネが小さく溜息を吐きながら、「ラプラ」と声をかけた。そして彼女は暴走する友人にこう語りかける。
 
「ラプラ、今があなたのその崇高な愛とやらを証明するチャンスだと思う」
 
「え?」
 
 ウネの唐突な意味深発言に、ラプラはアーリィの手を握ったまま彼女の方を向く。
 ウネは盲目の目をあわせずに、疑問を返すラプラにこう説明をした。
 
「あなたが飛んで火竜を探し、見つけたら私たちの元まで誘導してきてほしい。……きっとあなたが火竜を見つけてきたら、あなたのその危険を顧みないで皆の為に努力する姿を見て、レイリスはあなたをもっと好きになると思うの。だからラプラ、お願いできる?」
 
「!?」
 
 ウネの言葉に、ラプラは「そ、それはそうですね!」と強く納得し、そして彼は疲労と屈辱でぐったりして口数少ない偽レイリス(中身マギ)に視線を向ける。最高の笑顔で彼は偽レイリスに聞いた。

「レイリス、私が火竜を見つけてきたらあなたは私をもっと愛してくれますよね?!」
 
 もっと、以前に愛してないと突っ込みたがった本物レイリスだが、彼はそれを我慢してマギに背後から近づく。そして「だから俺はレイリスじゃない」と文句を言いかけるマギの口を背後から手で塞ぎ、彼はマギの物真似をしてこうラプラへ言った。
 
「もがっ……!」
 
「あぁ、火竜を見つけてきたらこいつはお前とこのまま魔界に帰ってお前の嫁になっていいと言っているぞ」
 
 もう本当に元の体に戻る気が無いのか、レイリスはマギの真似をして、そうラプラに自分の体とマギの魂を1セットで売る。『こいつは本物の悪だ』と、それを見たララたちは思った。
 
「な、なんと言う事でしょう! このまま私と帰っていただけるなんて……それは本当なんでしょうか?!」
 
 感動の余り震えるラプラに、偽マギ(レイリス)は笑顔で「本当だ」と返事する。レイリスに口をふさがれたマギは青ざめた顔色でもがもがと何か抗議めいた事を言っていたが、レイリスがそれをマギの肉体の強力で無理矢理封じ込めた。
 
「あ、ああぁ……嬉しいです、レイリス……やっと私たちは一つに結ばれるのですね……これで私もようやく、孫の顔を楽しみにしている両親を安心させられます」
 
「結ばれるかどうかは、お前が火竜を見つけてこれるかにかかっているがな」
 
「あぁ、そうですね。勿論わかっていますよ……ふふ、いいでしょう。火竜の一匹や二匹、五分いただければ必ずやここに連れて来ましょう」
 
 こうしてウネと偽マギ(レイリス)によってその気にさせられたラプラは、羽を出して勢い良く空へと飛ぶ。すべてはそう、愛の為に。
 
「レイリスー、子供は最低五人は欲しいですよねー! 私、頑張りますねー!」
 
 怖いことをそう叫びながら、ラプラは物凄い速さで何処かへと飛んで行った。
 そして残されたのは、ラプラの行動力に呆気に取られる数人と青ざめて気を失いそうな被害者というか生贄、それと清々しい表情で空を見上げる極悪魔王。
 
「……マギ、魔界に行ってもどうか達者でね! あ、子供はわざわざ見せに来なくていいからね!」
 
「レイリス、貴様……絶対に許さん……」
 
 
 
 
◇◆◇◆◇◆
 
 
 
 
 求める水を手に入れるために洞窟の中へと入ったウィッチたち。
 
「うぅ~……くら~い、じめっとしてるぅ、マヤがいなくて楽しくな~い!」
 
 洞窟に入って三分も歩かないうちに、ウィッチは早速不満を口にし始めた。
 
「もう帰りたいんだけど」
 
「帰りたくなるの、はやっ! 神サマ、もう少し頑張ろうよ。きっと頑張ったらあの女神サマも褒めてくれるって」
 
「そーかなー?」
 
「そうそう」
 
「ん~……マヤが抱きしめて褒めてくれるならまぁ、頑張るけどぉ」
 
「はは……してくれるよ、多分」
 
「ほんと? じゃあもうちょっと頑張る」
 
 やる気あるのかないのかわからないウィッチに、エルミラが苦笑しながら励ましの言葉を向ける。
 ウィッチは魔法で光を発生させて周囲を照らしながら、「早くマヤに会いたいなー」と呟いた。
 
「はぁ……神サマのご機嫌取りでもう疲れそう……」
 
 いつの間にか自然な形でこのメンバーの統率係になっているエルミラは、そう言って疲労の溜息を吐く。自分以外にそういう事できそうな人がいないので仕方ないのだが、それにしてもウィッチという強力だが我侭な爆弾を管理するのはやたら疲れると彼は思った。
 
「それにしても、確かに暗くてじめっとしてて……なんだか雰囲気が怖い洞窟ですよね」
 
 女教師アゲハが、緊張した面持ちでそう呟く。確かに彼女の言うとおり、洞窟内部は全くいい雰囲気ではない。
 
「まま、魔物、が、ででで、出るんです……よね? ……うぅ、今更にまた怖くなってきました……」
 
 アゲハの後ろに引っ付いて怯えるリーリエの言葉に、レイチェルも「うん、暗いから尚更怖く感じて嫌だよね」と頷く。
 
「暗いから突然魔物が現れたりしそうで怖いよね」
 
「そうそう、突然……」
 
 怯えるレイチェルの言葉にエルミラが頷くと、彼は頷いた拍子に前方の闇に何か光るものを見つける。そして彼が目を凝らしてその正体を探ると……
 
「って、出たー! ぎゃあああぁぁ!」
 
 叫ぶエルミラが指指す方向、ウィッチたちの前方に不気味に青く輝く小さな光が無数出現。その正体は獲物を見つけて殺気を漂わせた、狼型の凶暴な魔物の目だった。
 そしてエルミラ以外の者たちも、ついに出た魔物の存在に気づいてそれぞれに反応した。
 
「あぁ、あれはバウンドウルフだね。ただの大きい狼だよ。ギラギラした野獣の目つきが可愛いから昔ペットとして一匹飼おうとしたんだけど、マヤに怒られちゃったから諦めたんだよねー」
 
「うわあぁ、エル兄止めてよ僕の後ろに隠れるの! 僕だって怖いんだからー!」
 
「ひいぃぃやああぁぁああぁ……すみませんわたしが魔物出るとか言うから出たんですよねあぁあぁぁぁ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃ……っ!」
 
「り、リーリエさん落ち着いてください! 大丈夫ですよ、だって私たちにはミレイさんやウィッチさんがいるんだし!」
 
 ウィッチは『ただの大きい狼』と称した魔物だが、体長が二・五メートルほどありそうな狼は『ただの』で片付けられるレベルではない。しかもそんな化け物が複数現れた為、大半の者たちは混乱した。
 
『グルルルルルル……』
 
「あぁ、唸ってる……超唸ってるよ……あれ間違いなくオレらのこと食う気だよぅ……!」
 
 エルミラは涙目で「オレ不健康な生活送ってるから美味しくないよ」とか言うが、そんなの魔物に通じるはずもない。それにそもそも今のエルミラはレイチェルの体なので、むしろ若い子供の体とか魔物にはすごいご馳走に見えているかもしれない。
 そうしてエルミラの懇願むなしく魔物は唸り声を上げ、ついにウィッチたちに襲いかかってきた。
 
 
 
◇◆◇◆◇◆



 ちなみに皆が色々やってる頃のミルフィーユさん。
 
「……うん、美味い。さすが俺」
 
 残ったパーティーの料理を、マイペースに一人でもしゃもしゃ食べていた。
 
 
 
◇◆◇◆◇◆
 
 
 
 轟音と閃光が炸裂する。
 爆風がその場の全てを無差別に吹き飛ばし、悲鳴は全て大地を震わす爆音にかき消される。
 
 そして、後に残されたものは。
 
 
 
「……おーっと、ちょっと派手にやりすぎちゃったかなー?」
 
 とんでもない威力の呪術を発動させた後、アイフェは一仕事終えたように深く息を吐きながらそう呟く。彼の後ろではマヤが世にも恐ろしい顔をしながらアイフェを睨み、アイフェの術が発動する前に皆を守る為に急いで発動させた結界魔法を解除していた。
 マヤの咄嗟の判断のおかげで、皆なんとかアイフェのとんでも威力の術に巻き込まれず無事だった。だがそれでめでたしめでたし、といく訳もない。
 
「アイフェ、あんた……」
 
 呆然としていて言葉を発せられない状態のローズたちの代わりに、マヤが額に青筋を浮かべながらアイフェへと声をかける。アイフェは何も考えていなさそうな笑顔で、「どした?」とマヤに振り返った。
 
「どうしたって……あんたは加減ってものを知らないの?!」
 
 アイフェの発動させた術により湖周辺の木々は吹き飛ばされ、地割れが至る所で起こり、どこかで雪崩が発生しているらしい音が今も不気味に轟いている。
 そして肝心の湖は、広大な面積の半分以上の水が蒸発したのか吹き飛ばされたのか不明だが、すっかり無くなって水嵩が大幅に減っていた。
 
「ま、マヤが庇ってくれなければ俺たち確実に皆吹っ飛んで消えていたよな……」
 
 まだ怯えるローズの呟きを聞いて、やりすぎアイフェは「やー、わりぃな驚かせて」と謝る。だがそのどう見てもまるで反省していない彼の謝罪に、マヤがキレ気味に注意した。
 
「気をつけなさいよね! たしかに派手に暴れろ的な許可は出したけど、でも最低限気をつけることって常識であるでしょう!?」
 
 マヤのごもっともな訴えに、アイフェはやはり締りの無い能天気な笑顔で「あはは、ごめん」とやる気無く謝るだけ。そんな彼を見て、マヤ以外の者たちは何か凄い疲労を感じた。
 
「もう、真面目にやばかったんだからね! アタシがどれだけ焦って防御したと……」
 
「まあまあマヤちゃん、そう怒らないで。それよりほら、いい感じに湖の減ったし、これでもしかしたら水竜ちゃん出てきてくれるんじゃない?」
 
 アイフェがそう笑顔でマヤの怒りを誤魔化した時だった。彼の言葉どおりのタイミングで、水嵩の減った湖から何か不気味な気配が放たれる。やがて水面に泡が無数に生まれ、明らかに湖の中に”何か”がいることをローズたちに暗示する。
 
「……あれは、何かいるよね?」
 
 ジューザスの緊張した超えの呟きに、幼女ヒスが「いる」と蒼白な顔色で頷く。
 
「これは間違いなく目的のアレが出ますね。ヒスの姿で私に何ができるのかさっぱりわかりませんが、頑張ります」
 
「つ、ついに……はぁ、私”コレ”でちゃんと戦えるかしら? 怪我だけは絶対にしないよう気をつけないと」
 
 カナリティアとエレスティンも、緊張を隠せない面持ちで湖をじっと見つめる。何かがそこから来る事はもう、誰の目にも明らかだった。
 
「来るぞ」
 
 ユーリから借りた短剣を構え持ちながら、ローズがそう短く注意を言う。
 そして、ついに彼らが目的としていたものが水面を勢い良く突き破り姿を現した。
 
「水竜!」
 
 アイフェが叫ぶ。
 水嵩の減った湖の水面を突き破り、激しい水しぶきと共に姿を現したのは青銀の鱗を全身に纏った巨大な竜。
 湖の水をキラキラと鱗の表面で光らせた竜は非常に美しく、しかし蛇のように長い体という異質な見た目と体長数十メートルはあるだろうその巨大さから、不気味な恐怖という印象を皆に強く与えた。
 
「ふっ、ついに出たわね水竜……」
 
「ほらほらマヤちゃん、結果オーライでしょこれ!」
 
 緊迫した雰囲気を全力で無視するアイフェを無視して、マヤも自身の剣に手をかける。そして彼女は男らしい凛々しい表情で、無機質な銀の瞳でこちらを見下ろす竜に宣戦布告した。
 
「悪いけど、今からアタシたちがあんたのその牙もらうわよ!」
 
 水竜はマヤの言葉を理解したかのように、鋭い銀の牙を見せながら大きく口を開け、地を轟かす雄叫びを返す。そして竜は動き、ついに彼らの戦いが幕を切って落とされた。
 
 
 
◇◆◇◆◇◆


 空を見上げ、レイリスは呟くように言う。彼が語りかける相手は、隣に立つウネ。
 
「ねぇウネ、あたし時々思うの。彼を見てると、愛って本当にすごいんだなぁって」
 
「……そうね、私もそう思う」
 
 レイリスの他人事の言葉に、ウネは深く頷く。
 そして遠く空の上から聞こえてくる彼の声と、何かが大きく羽ばたく音が複数。
 
 
「レーイーリースー! お待たせしましたー!」
 
 凄く嬉しそうな声と共に、愛に飛び立ったラプラは『火竜を見つけて誘き寄せる』という約束を果たして、見事背後に火竜を連れて再びレイリスたちの元へと戻ってくる。それに要した時間は、恐ろしいことに三分もかからなかった。
 しかしもっと恐ろしいのは、彼が『レイリスと結婚』という夢を果たす為に引き連れてきた火竜の数だ。
 
「おい、誰があんなに連れて来いって言ったよ……」
 
 引きつった表情でそう呟くユーリの目には、今までどこにいたんだとツッコみたくなる五匹の火竜の姿が映る。しかも嫌がらせのように全員がでかい。
 
「い、一匹でいいのに……」
 
 アーリィも若干呆れた様子で空を見上げ、これからの戦いに備えてロッドを強く握り締める。
 アーリィの言う通り鱗が手に入ればいいので本来狩る火竜は一匹で十分だが、ラプラが余計な張り切りで余計な数連れてきてしまった分はこの際相手するしか選択肢が無い。
 
「ちっ……どこまでも迷惑な野郎だ」
 
「でもちゃんと約束どおり火竜つれて来たんだから、ちょっとは褒めてやらねーと可哀想だぞ」
 
 不機嫌なマギの隣で、ララが自分の武器である槍を持ちながら不敵に笑った。ユトナの姿でも、使い慣れた武器がいいと彼は槍を選択したのだろう。ユトナもララの巨体で刀を構える。
 
「ところでレイリス、お前の武器は……?」
 
 各々皆武器を構えているが、そういえば自分だけカスパールが使用不能になった為に武器が無いと、マギは今更にそれに気がつく。すると彼に声をかけられたレイリスが、優しい笑顔でこう彼に返事をした。
 
「あたしの武器はそのカラダよ♪」
 
「ぶっ殺すぞ」
 
 ふざけてる場合じゃないので、マギは簡潔にレイリスへ怒りを返す。だがレイリスは今度は真面目な顔となり、「ふざけてないわよ」と言ってマギを更なる不幸へ突き落とした。
 
「だってあたしって主に体術で戦ってるんだもん。だから武器は体なのぉ。ちなみに蹴り専門ね。ほら、あたしって腕力ないからさぁ。ペンより重いものは持てないか弱さなのよー。まぁ一応ナイフくらいは常に携帯してるけどぉ……」
 
「……つまりどういうことか説明しろ、変態」
 
「つまり今のあんたはそのミニスカメイド服でパンツ晒しながら戦うしか手段がないってことよ。それが嫌なら大人しく隅に引っ込んで怯えてなさい、マギ。それともか弱いヒロインみたいにあたしに守ってもらうのがお好み? 可愛く『助けてレイリス』っておねだり出来たら、やってあげなくもないわよ」
 
 ショックを受けてまた顔面蒼白に固まるマギを無視して、レイリスは男らしさと邪悪さを併せ持った肉食獣の笑みで火竜の群れを見上げた。
 
「仕方ない……一匹残らず、全て狩りましょう」
 
 溜息混じりにそう呟いたウネは、構えた弓で光り輝く矢を火竜に向けて放つ。それが彼らの戦いの合図となった。
 
 
 
◇◆◇◆◇◆
 
 
 
 バウンドウルフがウィッチたちを獲物として捕食しようと、襲い掛かってきた時だった。
 ミレイの目が突如、怪しく光る。というか、襲い掛かってきたバウンドウルフ目掛けて、何故かミレイの目から青いレーザー光線が放たれた。
 
『キャインっ!』
 
 レーザー光線を受けたバウンドウルフは、犬みたいな悲鳴を上げて次々倒れていく。
 そしてウィッチとミレイ以外が呆気に取られてただ呆然と見守る中、頼もしい機械天使ミレイは一分もかからずバウンドウルフを全て倒した。
 
「す、すげぇ……けどそれ以上に意味わかんない……」
 
 エルミラはそう言って安堵する一方、謎のレーザー光線機能をいつの間にミレイは搭載したのかと不思議がる。レイチェルは純粋に目を輝かせ、「ミレイすごーい!」とミレイの新機能に感動していた。
 
「いやぁー、想像していた以上に面白かったねー! よかったよ、ミレイ!」
 
 やがてウィッチがご満悦の笑顔でそうミレイへ声をかける。ミレイは主人に褒められ、照れた様子で「いえ……」と頭を下げた。
 
「なになに、やっぱりアレって神サマが搭載したの?」
 
 エルミラがそう興味津々にウィッチに問うと、ウィッチは「まぁね!」と自信満々に答える。
 
「以前君が『ミレイの目からビーム出たり、手からロケットパンチ撃てたらすっごい面白いのにな~』って呟いてるのを聞いてね。それ確かに面白そうだったから、ちょっとレイチェルに改造を頼んだんだよ」
 
「え、レイチェルが改造したの?」
 
 エルミラの疑問の眼差しがレイチェルへと向けられる。するとレイチェルは、「でも実際にビーム見たのは今が初めてだよ」とエルミラに返事をした。
 
「すごいですねー! なんかこう、ヒーローみたいでしたよ!」
 
「はい……なんというか、胸がときめきました……いいですね、すぐ活躍できて羨ましいです……」
 
「いや……別に……」
 
 アゲハとリーリエも、ミレイの新機能に称賛を向ける。皆にやたら『すごい』だの『かっこいい』だの褒められ、ミレイは珍しく照れて動揺した様子となった。
 そしてさらにミレイを称賛する声は続く。
 
「しかしやっぱりいいよなー、目からビームとかロケットパンチは男のロマンだよな!」
 
「うん、かっこよかったー。僕、最初は『どうなんだろう、それ』って思いながら改造してたけど、実際見るとあんなにかっこいいなんて思わなかったよ」
 
「私たちを助けてくれた今のミレイさん、まさに正義のヒーローでしたよね! あぁ、正義のヒーロー……憧れますっ! 私もいつか戦隊ヒーローものの一員に……っ!」
 
「また助けてください、是非……」
 
 こうしてミレイが一躍皆のヒーローになると、さっきまでのご機嫌な様子が一変して、わがまま神様はまた不機嫌な様子となる。
 
「むぅ~……なんだよ、僕の方がすっごい神様なのにぃ~。皆、どうせ褒めるなら僕褒めてよ」
 
 自分至上主義なウィッチ様は、自分を差し置いてミレイが皆にちやほやされるのが気に入らないらしい。
 
「ねぇ、ミレイ」
 
「はい、ウィッチ様」
 
「やっぱり今の新機能、あとで全部取っ払うよ」
 
「な、なぜ?!」
 
 ミレイはせっかく活躍したのに、今の自分の一体何がいけなかったのかさっぱりわからずまた動揺する。ウィッチは自分勝手に「僕より目立つって、なんかむかつくんだよね」とだけ言い、困惑するミレイとエルミラたちを置いてさっさと先に進み始めた。
 
「あ、ま、待ってくださいウィッチ様!」
 
 
 
◇◆◇◆◇◆

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MAGIC☆SALT☆PARTY 7

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