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MAGIC☆SALT☆PARTY 3

2020.11.16

神化論のオールキャラギャグです。

▼アイキャッチがじわじわくる目次はこちら

MAGIC☆SALT☆PARTY 1


MAGIC☆SALT☆PARTY 2



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 改めて謎パーティーの(強制)参加者が広間に集まると、燕尾服を着て正装したウィッチがマイクを握って挨拶を始める。
 
「さぁて、本日は忙しい中、君たちよりももっと忙しい僕の主催する超素敵に楽しいパーティーにご参加いただきありがとー! こんなにたくさん人が参加してくれたのは、言うまでも無くそれだけ主催の僕の人望が厚いってことだよね! あはは!」
 
 参加者に物凄いストレスを与えるウィッチの挨拶の間に、ミレイが各々に飲み物を配って回る。
 
「で、いい加減これなんのパーティーなの?」
 
 乾杯前なのにミレイから受け取ったオレンジジュースを普通に飲みながら、エルミラがそう独り言のように言う。するとそれを聞いていたのか、ウィッチが「それはね!」とエルミラを指差しながらマイクを使って叫んだ。
 
「わっ、びっくりした! なに!?」
 
「皆も気になってるよね!? このパーティーが何なのか! いいよ、そろそろ皆に教えてあげるよ!」
 
 ウィッチはマイクを力強く握り締め、「ミレイ、準備はいい?!」とミレイに何かを聞く。ミレイは「大丈夫です、ウィッチ様」と返事をし、なにやらウィッチの背後の壁に吊るされていた大きな白い布に手をかけた。
 
「ずばり今日のパーティーは……こういうことなのさ!」
 
 ウィッチがそう叫ぶと、それを合図にミレイが白い布を引っ張る。するとウィッチの背後に、白い布に隠されていた横断幕が現れる。そこに書かれていた文字は……
 
「……ウィッチとマヤの……誕生日おめでとう、パーティー?」
 
 ローズが横断幕の文字を読む。途端に彼の隣でマヤが「なんじゃそりゃああぁぁぁ!」と顔を真っ赤にして叫んだ。
 
「え? なにって……だから今日は僕とマヤの「いやあああぁああ!」回目の誕生日を祝うパーティーなんだってば」
 
 二人にとって一体何回目の誕生日になるのかは、恐ろしい桁をいく実年齢を隠しておきたいマヤの悲鳴によって隠されたが、しかしこれでやっと皆は今回のパーティーの趣旨を理解した。
 
「そうか、今日はマヤの誕生日だったのか……知らなかったな」
 
 ローズがそう言いながら隣のマヤに視線を向けると、マヤは何か非常に気まずそうな様子で「どうなのかしら?」と返した。
 
「こう長く生きてると誕生日とか自分でも忘れちゃうのよ。だからあんたたちにも言わなかったんだけど……」
 
「つーかお前の場合は年取るの忘れたくて、誕生日を忘れようとしてるってのが正しいんじゃねーの?」
 
「黙れ小僧」
 
「ごふっ!」
 
 正解を口にするユーリのボディーに鉄拳をぶち込み、マヤは重いため息をまた吐く。
 
「あんた一人で皆に迷惑かけるならまだいいのよ……そこに勝手にアタシを巻き込まないでよね……」
 
 ウィッチの迷惑に対してそんな本音を呟くマヤに、しかしローズは優しい笑顔で「でもいいじゃないか」と声をかけた。
 
「誕生日を忘れないでお祝いしてくれようとする人がいるのはいい事だと俺は思うぞ」
 
「う~ん……そうかな?」
 
 まだ何か納得いかない様子のマヤに、ローズが「おめでとう、マヤ」と言う。アーリィも「おめでとうございます、マスター!」と力強く言い、彼らの様子にマヤもまんざらでもなくなったのか、「あ、ありがと」とちょっと照れた様子で礼を返した。
 が、そんないい雰囲気をぶち壊す声がマイクを通じて広間に響き渡る。
 
「まぁぶっちゃけ誕生日って言える誕生日は再来月なんだけどね! 最近すっごく暇だったから、再来月なんて待てなくて今日パーティー開いちゃっただけで! 今日おめでとうって言ってもあんまり意味無いかも、あはは!」
 
「てめぇ……」
 
 ウィッチの空気を読まない自由な発言に、マヤの額に青筋が浮かぶ。それでもローズが笑って「まぁいいじゃないか、今日でも」と言うと、マヤもいちいち怒っててもキリが無いと理解したのか「そーね」と疲れた様子で言った。
 
「でも神サマ、誕生日パーティーってことはオレら何かプレゼント用意しといたほうがよかったんじゃない?」
 
 エルミラが余計な疑問を口にすると、ウィッチは「あぁ、そーいうのは別にいいの」と意外な返事をする。
 
「え、いいの?」
 
「うん。僕は別に皆とたのしーく騒ぎたかっただけだし、こうして皆が参加してくれて楽しんでくれたらそれで満足だよ。それが僕にはプレゼントかなーって……えへっ!」
 
 何か諸悪の根源でトラブルメーカーでとにかく全人類の敵とは思えないウィッチのそのいい人っぽい発言に、逆に皆は物凄く不安になって不信がる。
 
「おい、あいつ絶対なにか企んでるぞ」
 
「な、なにか不吉な予感がするのです……この後に絶対何か大変なことが起きると……思うんです……」
 
 ララが不信感たっぷりに断言し、リーリエが青ざめながら嫌な予言までするので、場はまた不安たっぷりの嫌な空気に包まれた。
 
「マヤもどお、僕のこのサプライズ喜んでくれた?」
 
「……喜ぶか喜ばないかは、この後無事にパーティーが終わるか終わらないかで決まるわ」
 
 マヤの正しい返事に参加者全員が同意する。
 ウィッチは「それじゃあとりあえずパーティーを始めようか!」と、一人だけフルパワーで楽しそうに言った。
 
「んじゃ皆、飲み物のグラス持ってー。はーい、じゃあ可愛くて賢くてとにかくすっごい僕とマヤの誕生日を祝してかんぱーい!」
 
「やああぁ恥ずかしい乾杯の言葉にアタシを巻き込まないでぇ!」


 そうして始まった誕生日を祝うパーティーは皆の心配をよそに、自由に飲み食いしながら談笑するだけのいたって平和的な形で進行した。
 皆高いワインやジュースを飲みながら、ミルフィーユシェフが意外な料理の才能を全力で発揮して作った料理を味わい、各々日ごろのアレコレな関係はとりあえず無視して皆楽しく話をしている。
 
「ところでウィッチ、今回のパーティーの資金とかって一体どうしたんだい?」
 
「それはねジューザス、とっても親切などっかの世界のお姫様がスポンサーになってお金出してくれたんだよ!」
 
「お姫様?」
 
「そ! なんかすっごい魔力持った派手なピンク頭のお姫様。この城もそのお姫様が貸してくれたってミレイが言ってた」
 
「ふ、ふーん……」
 
 ウィッチに協力したお姫様って一体誰なんだろうと思いながら、ジューザスはローストビーフを口にする。
 
「まぁ、なんでもいいか。どうやら本当に今回は君も、何か無茶をしようとしてるわけではないようだし……」
 
 美味しいローストビーフを食べながら、ジューザスはそう呟く。
 このまま穏やかに事が進んで、珍しく何もトラブル無いままに今回は終わるんじゃないかと、ジューザスだけじゃなく参加者たち全員が期待していた。
 
 ……だが。
 
 
「……んん?」
 
「どうしたの、ローズ」
 
 デザートのケーキを食べていたローズが突然妙な反応を見せる。マヤが声をかけると、彼は額に手を当てて「なんだか急に眠気が……」と呟いた。
 
「へ?」
 
「やば、い、マヤ……なんか、今俺、猛烈に、ねむ……い……」
 
「え、ちょっ、ローズ!?」
 
 突然『眠い』と言ったローズはケーキを皿ごと手放し、そのまま瞼を落として床に倒れる。驚くマヤがローズに「しっかりしてよ、ローズ!?」と駆け寄ると、何やら周囲も同様に怪しい雰囲気となり始めた。
 
 
「うあぁ~、なんだ? 急にめっちゃねみぃ……」
 
「ユーリ?」
 
 がぶがぶ高級ワインを消費していたユーリも、ローズ同様に急な眠気を訴えてその場に倒れる。アーリィが泣きそうな顔で「ユーリ!」と叫ぶと、他の参加者たちも次々に謎の睡魔に襲われてその場に倒れ始めた。
 
 
「おかしいですよ、エレ……なんだか私、とても眠いです……」
 
「カナリティア、大丈夫? もしかして酔ったの? ……あれ、ちょっと待って、私もなんだか、ねむ……」
 
「おいレイリス、なんかすげぇねむくねーか……?」
 
「えーなになにクロウ、それあたしを誘ってるの? いいわよ、あたしはいつでも準備オッケー……って、ホントだわ、なんか……だめ、起きてらんない……」
 
「エル兄にユゥ兄、お酒飲みすぎ? こんなとこで寝ないで、よだらしな……い……ぐぅ」
 
 次々に参加者が眠気を訴えて倒れていく。
 そして最終的に、この五人を残して全員が突如原因不明の睡魔によって寝てしまった。

「ま、マスター……どうしたんですか、ユーリたち……」
 
「わ、わからないわ……ちょっとウィッチ、これはどういうことなのか説明しなさいよっ!」
 
「えー、僕も知らないよー? 今回の僕は、本当に何も企んで無いしー。ミレイは何か知ってる?」
 
「いえ……しかしこういう場合は料理に何か睡眠薬的なものが入っていたと考えるのが普通ではないでしょうか? そういうわけで、料理を作ったミルフィーユが怪しいと思います」
 
「俺も何もしてないぞ」
 
 眠らなかったのはマヤとアーリィ、それに主催者側のウィッチとミレイとミルフィーユの三人だけ。あとの全員は、床やテーブルに突っ伏して完全に眠ってしまっている。
 この奇妙な事態に、残された五人はちょっと途方にくれた。
 
「ねーマヤどうする? こいつらたたき起こす? それとも電流でも流して起こす? 水攻めで起こしてもいいけど……」
 
「だ、ダメよウィッチ! とりあえずこうなった原因を探らないと!」
 
「やっぱり料理が怪しい気がします、マスター……」
 
「俺は無実だ、何もしてない」
 
「じゃあ一体誰が料理に毒を……?」
 
 何か自然と『料理が怪しい』という流れになったので、マヤは真剣に考えてみる。今この場で一番しっかりしているのは自分、というかそれ以外が頼りなさ過ぎる事を知っている彼女は、『自分が何とか解決しなきゃ』と使命感に燃えた。
 
「確かに料理が一番怪しいけど、アタシもアーリィも普通に食べてたわよね? なのにアタシたちは無事……これはどういうことかしら?」
 
「だから俺は料理に変なことなどしてない……」
 
 ミルフィーユのやる気ない訴えを聞き、マヤはふと思い出す。
 
「そういえばミルフィーユ、あなたあの塩持ってる?」
 
「塩?」
 
 マヤは先ほど貯蔵庫にいた時、ミルフィーユが持っていた何か気になる塩のことを思い出していたのだ。
 
「さっきあんたが持ってた塩よ!」
 
「塩なら調理場にあると思うが……」
 
 ミルフィーユが虚ろな目でそう答えると、マヤは「今すぐ取ってきて!」と彼に命令する。ミルフィーユは不思議そうな様子で、しかし言われたとおり塩を取りに調理場へと向かった。
 
「なになにマヤ、これは悪霊の仕業とでも推理したの? で、塩撒くつもりとか?」
 
「違うわボケ、いいから黙ってなさいよ。……あ、その前に確認なんだけど、今回の料理の材料って調味料とか含めて誰が用意したの?」
 
「え? 料理の材料も会場も全部ミレイが用意したよ?」
 
「そう……」
 
 ウィッチからの情報でマヤが考えていると、ミルフィーユがあの例の塩を持ってやって来る。

「これか?」
 
「そう、それ!」
 
 ミルフィーユから小瓶を受け取り、マヤはじっと中身を観察し始めた。
 
「う~ん……やっぱりこれ、なんか怪しい……」
 
「マスター、どうしたんですか?」
 
「いえ、この塩が入ってるって言う瓶なんだけど、どうにもただの塩とは思えない怪しい雰囲気があるのよ」
 
 マヤがそう返事をすると、アーリィも瓶の中身を見て「確かになんか変ですね」と言う。
 
「なにか、魔法薬に近い匂いを感じると言うか……」
 
「やっぱりアーリィもそう思う?」
 
 アーリィの意見で、マヤはこれが怪しいと確信したらしい。
 
「ミレイ、あなたがこれを用意したのよね?」
 
「し、したが……そんなものは適当に食材を扱う店で買ってきたものでしかないぞ?」
 
 何か容疑が自分に向き始めたことを察したミレイが、困惑した様子でマヤにそう返事を返す。しかし直ぐに何かを思い出した様子で、ミレイは「いや、待てよ」と呟いた。
 
「違うな、その塩は確か……そうだ、ヴァイゼスの廊下でヒスとすれ違った時、そこの廊下に落ちていたとかで彼から受け取った塩だ」
 
 ミレイは「正直私も買った記憶がない塩だ」と、マヤの持つ謎の塩に関して自分が知っていることを正直に話した。
 
「ま、ますますこの塩が怪しくなったわね……」
 
 どこから湧いて出て来たのか不明の塩は、ミルフィーユが何の疑問も持たずに今回の料理に使いまくってしまった。やはりこれが原因なのか。
 
「でもさー、仮にその塩が原因だとして料理食べれない僕とミレイ、あとミルフィーユが無事なのはわかるけど、普通に食べてたマヤたちに影響無いのはなんで?」
 
 ウィッチの疑問に、マヤは「そ、そんなの知らないわよ」と返す。
 
「そもそもコレ本当に塩? ちょっとウィッチ、あなたこれ舐めてみなさいよ」
 
「悪いけどマヤ、僕肉体無いからそーいうの味わえないんだよねー」
 
「……ちっ」
 
 『仕方ない、自分が味を確認するか』と、マヤは怪しさ満点の塩の瓶の蓋を開ける。
 
「だ、だめですマスター! そういう危険なことは私がします!」
 
「大丈夫よ、多分。アタシたちには影響なかったみたいだから舐めても妙なことには……」
 
 アーリィが心配する中、マヤは瓶の中の白い粉を一撮み舐めて味わってみる。そしてアーリィたちがどこか緊張した面持ちで見守る中、マヤは何か考える表情でこう呟いた。
 
「微妙にしょっぱい、けど……やっぱこれ、塩じゃないわね」
 
「!?」
 
 マヤの言葉に、アーリィは「じゃあやっぱりそれが怪しいですね!」と力強く言う。するとミルフィーユがボーっとした顔で、「どおりでその塩使ってもなかなかしょっぱくならなかったわけだ」と呟いてマヤを呆れさせた。
 
「あんた料理作ってるとき味見してたの? しょっぱくならない時点でこの塩の怪しさに気づきなさいよ」
 
「特に気にはしなかったが、なかなかしょっぱくならないので物凄い大量に料理に投入はしたな」
 
「ああぁー……そう……」
 
 ミルフィーユの暢気な証言にマヤは脱力しながらも、しかしこの新証言で自分とアーリィの他にも、ミルフィーユが料理を食べても無事だったこと確認する。
 
「ん~……アタシとアーリィとミルフィーユが大丈夫で、その他が料理を食べて寝てしまった理由って何かしら?」
 
 マヤがそう言って考えは始めたときだった。
 
「……う~ん」
 
「!?」
 
 ローズの声が聞こえ、マヤは振り返って急いで彼へと駆け寄る。ローズはマヤが駆け寄ると、ゆっくりと目を開けて彼女を見た。
 
「ローズ、よかった目が覚めて! 大丈夫?!」
 
「……マ、ヤ?」
 
 ローズはまだ意識が覚醒し切らないのか、ひどくぼんやりとした様子でマヤを見る。すると傍でユーリも目を覚まし、彼の元にはアーリィが駆け寄った。
 ローズはぼんやりした様子のまま、マヤに支えられながら体を起こす。
 
「ローズ、どうしたの? 突然寝ちゃって心配したのよ?」
 
「くそっ、あたまいてぇ……つーかよぉ」
 
「ん……?」
 
 なにか、ローズの様子がおかしい……。
 
 マヤがローズの様子に直ぐに違和感を感じた直後、話しかけられたローズはマヤを驚愕させる事を言った。
 
「お前なに言ってんの? 俺はローズじゃなくて、ユーリだろ?」
 
「……は?」
 
 ローズの顔とローズの声で、彼は自分を『ユーリ』と言う……。
 
「ありえねー間違いすんなよー……って、なんか俺声おかしーな。確かにローズみてぇな声だ」
 
「な……っ」
 
 何言ってんのはお前だ、と思わずマヤは叫びそうになる。しかし目を覚ましたユーリも妙な事を言ってアーリィを困惑させているのに気づき、彼女はひどくいやな予感を感じた。

「ユーリ、大丈夫?」
 
「……えーっとアーリィ、俺がユーリってどういうことだろう? 俺はローズ、なんだが……」
 
「え……?」
 
 そして次々に目覚める他の者達。だが彼らもやはり、ローズとユーリ同様に奇妙なことを言い始めた。
 
 
「な、どういうことだ?! 何故俺がカナリティアの体に……?!」
 
「私は逆にヒスの体になってるようですね。……眼鏡無いから回りが良く見えません」
 
「わ、私はジューザス様の体に?! なななな、なんで?! いやああぁどうしよう!」
 
「……で、私はエレの体みたいだね……う~ん、これは一体……」
 
「ぎゃあああああぁ! 俺クロウさんになってるぅぅ! なんだこの野太い声ぇぇー!」
 
「おいユトナ、お前俺の体返せよ。 ……しかしなんだこりゃ、ホントに……俺はユトナの体になって、ユトナが俺の体になって……どういうことだ?」
 
「わわわ、わたしはアゲハになってます……っ! わたし、リーリエなのに……な、なにがなんだが?! じゃあわたしは一体誰に?!」
 
「リーリエさん、私です、アゲハです! 私がリーリエさんになってるようですよ! 体、交換しちゃったみたいですね!」
 
「僕はこれ……エル兄の体?」
 
「あれー……オレは目が覚めたらなんでかレイチェルの体になっちゃってたけど、これってまさか……」
 
 謎の睡魔に襲われてから、目覚めたら肉体と精神が何故か他人と交換させてしまっている事態に、何か心当たりがあるエルミラがレイチェルの姿で青ざめる。
 
「これって、まさか……あの薬?」
 
 呟いたエルミラは、もしそれが原因だったら自分はこのあとなんて言い訳をしようか必死に考え始めた。
 そうして何故か体と中身が入れ替わってしまった参加者たちが大混乱して、広間は瞬く間にパニックで慌ただしくなる。
 
 
「あれ、マギ……」
 
 エレスティンの姿になったジューザスが、目覚めてからも何故か一人落ち着いた様子で立っているマギに気づいて声をかける。
 
「貴様は……ジューザスか?」
 
「あ、あぁ……うん、そうなんだけど……」
 
「そうか……間抜け面でこっちを見るな、鬱陶しい」
 
 何かいつもと変わらない様子のマギを見て、ジューザスは「あれ、君は無事だったんだ」と呟く。
 どうやら中身が入れ替わらずにすんだ人もいるようだと彼が思った時、しかしマギの様子が突如変わった。
 
「くっくっく……あはははは! なーんてね! どぉ、マギの真似似てたかしらぁ?」
 
「!?」
 
 あのマギが突然大声で笑っただけでも天変地異なのに、そのうえ彼は女言葉を発してジューザスの思考を一瞬停止させる。
 
「き、君ってまさか……」
 
 何かに気づいたジューザスに、女言葉を喋る悪夢のマギはニヤリと笑ってこう答えた。
 
「そうよ、中身はレイリスよ」
 
 マギ、もとい外見だけマギのレイリスは、楽しいおもちゃを手に入れたような輝いた表情でそうジューザスに言う。
 
「ってことは……君の体は……」
 
 ジューザスの視線は移動し、たった今目を覚ましたらしいレイリスを見つける。
 おそらくあの中身は彼なんだろうなと思いながら、ジューザスは何か絶望した様子のレイリスを観察した。
 
 
「……な、ん、だ、これ、は……」
 
 目が覚めたら何故か女装していた自分に、レイリス……いや、中身マギのレイリスは気が狂いそうになっていた。
 
「俺が、なぜあの変態に……っ!」
 
 この世の終わりみたいな顔をするマギに、彼の体になったレイリスがニヤニヤしながら近づく。
 
「あーらマギ、お目覚め? どーお、あたしのカラダの使い心地は?」
 
「!? そのにじみ出る変態性は貴様、レイリスだな! やめろ、俺の姿で気持ち悪い喋りをするな! 俺の体を返せ!」
 
「イーヤ。せっかくこんな楽しいおもちゃ……じゃない、体手に入れたんだもの。目一杯遊ばせてもらうわよ」
 
 最悪の人物と中身が入れ替わってしまったマギは、今史上最大のピンチに陥ってた。
 
「な、なにするつもりだ、貴様……」
 
「そーねぇ……とりあえず制服をメイド服にしてそれ着て任務に行くわ。あ、ねこ耳もつけちゃおうっかな。で、ジューザスを『ご主人様にゃん☆』って呼ぶの。どう、想像しただけで最っ高にワクワクしない?」
 
「ふ、ふざけるな!」
 
「ふざけてないわよ、あたしは超本気よ!」
 
「なお悪い! くそ、何故こんなことに……っ!」
 
 本当に何故こんなことになってしまったのか。
 
 この状況を全力で楽しんでるレイリス以外が混乱する中で、マヤがウィッチのマイクを奪って「とりあえず皆、落ち着いてアタシの話を聞いて!」と呼びかける。
 そうしてパーティーは一時中断となり、皆はマヤを中心にしてこの不可解で奇妙な状況の把握と原因追求を行うことにした。



「で、確認をするとぉ……」
 
 腕を組んだマヤが中心となり、現在のそれぞれの体と中身を再確認する。
 
「ローズとユーリの中身が入れ替わって」
 
 なんか若干目つきと柄が悪くなったローズ(中身ユーリ)と、反対に大人しい雰囲気になっちゃったユーリ(中身ローズ)が顔を見合わせる。こうなったことは困るが、しかしお互い良く知った人物と交換された事は不幸中の幸いなのではと二人は思う。
 
「ジューザスとエレスティンが入れ替わって」
 
 どちらも不安げな表情で立ち尽くすジューザス(中身エレスティン)とエレスティン(中身ジューザス)。好きな人と体が入れ替わった為に、エレスティンは物凄く恥ずかしそうな表情で俯く。ジューザスも女性と体が入れ替わってしまった事で、かなり戸惑っていた。
 
「マギとレイリスが入れ替わって」
 
 心底楽しそうな笑顔のマギ(中身レイリス)と、真逆のテンションのレイリス(中身マギ)は今回最大の問題ある組み合わせだろうと全員が思う。最強の体で最凶の魔王にクラスチェンジしたレイリスの隣で、自分の体をとんでもない人物に人質として取られたあげくに自分は女装という屈辱を受けているマギが今にも発狂しそうな様子で震えていた。
 
「エルミラとレイチェルが入れ替わって」
 
 いつもと違ってしっかりして歳相応の落ち着きがある雰囲気となったエルミラ(中身レイチェル)と、逆に全体的に雰囲気が弱くなっちゃったレイチェル(中身エルミラ)。エルミラは名を呼ばれると、何かに怯えたように震えて自分の体の後ろに隠れる。エルミラの体になったレイチェルはふと”こうなる”原因の心当たりを思 い出して、ジトッとした視線で自分の後ろに隠れるエルミラを見た。
 
「カナリティアとヒスが入れ替わって」
 
 シャルル(うさぎの人形)を操れなくなった為に重そうに抱え持つ目つきの悪いヒス(中身カナリティア)の横に、色々と人生に疲れて諦め切ったような表情のカナリティア(中身ヒス)が立つ。滅多なことじゃ動じない鋼の心を持つカナリティアはともかく、幼女になったヒスは困り果ててむしろ諦めを感じていた。
 
「クロウとユトナが入れ替わって」
 
 何か雰囲気がオッサン臭くなったユトナ(中身ララ)に、色々ショックを受けてテーブルに突っ伏して泣いてるララ(中身ユトナ)が励まされている。それだけ見れば二人は酔いつぶれたおっさんとそれを介抱する若者という、いつもの光景のようにも見えた。
 
「リーリエとアゲハが入れ替わった、と……」
 
 何か泣きそうな顔をしているアゲハ(中身リーリエ)と、困った様子ながらも何か好奇心を抑え切れない様子のリーリエ(中身アゲハ)。色々酷いヴァイゼスの中じゃ比較的まともな交換となった二人は、しかしやはり何か雰囲気が違うので違和感があった。
 
「なんでかアタシとアーリィは無事だったわけだけど……」
 
 中身が入れ替わっちゃった人々を前にマヤがそう言うと、すかさずウィッチが「僕とミレイとミルフィーユもね!」と付け足した。
 
「はいはい、そうね。で、あなたたちが寝てる間にアタシたちは原因を探ってて、結果この塩が怪しいってことになったのよね」
 
 マヤはそう言うと、先ほどのあの”塩”を手に持って皆に見せる。そしてそれを見た瞬間、エルミラが「あーーーーーーーー!」と大声を上げた。
 
「な、なに!?」
 
「どどど、どうしてそれが……なんで、なんでそこにあるの?!」
 
 驚愕するエルミラに、目つきが五割増悪いローズ……ではなく、ユーリが「おい、どういうことだ?」と問う。
 
「お前なにか知ってんのか?」
 
「っていうかエル兄、まさかあれって……」
 
 レイチェルも瓶の中の白い粉を見て確信したらしく、怖い顔で自分にしがみ付くエルミラを睨んだ。
 
「……あなた、どうやらこれに心当たりがあるようね」
 
 マヤにも怖い顔で迫られ、エルミラは涙目になりながら「その前に確認させてよ」と呟く。
 
「確かにその塩には覚えがあるし、それにこうなった理由もその塩が原因なら納得できるんだ……でもオレにはなんでそれが今この場にあるのかさっぱりわからないんだけど、それがどうしてなのかをまず聞いていい?」
 
 エルミラが恐る恐るそう問うと、マヤは「ミレイが今日の料理に使う為に用意した食材の中に混じってたらしいわ」と答える。エルミラは紛失した”あの薬”が、何故かミレイの手に渡って今日の料理に混入してしまったことを理解して先ほど以上に顔色を青くさせた。
 
「で、貴様……心当たりがあるのなら、なにがどうなってこうなったのかいい加減説明しろ……」
 
「ひぃぃ! ま、マギさんですよね?! おおおお、落ち着いて! 話します、話しますからぁ!」
 
 姿はレイリスでも禍々しいオーラが間違いなくマギで、『殺される!』と怯えたエルミラはレイチェルの後ろに隠れたままで、例の薬のことを紛失の経緯まで洗いざらい全員へと説明をした。
 

 
「……って言う訳なんだけど……」
 
 エルミラが塩に見せかけた謎の白い粉の説明を全てし終える。
 
「オレが落としちゃったものが、きっと何でかわかんないけど料理の材料に紛れ込んでこんなことになっちゃったんだろーと思うんだけど……」
 
 皆の突き刺さる痛い視線に必死に耐えながら、エルミラはレイチェルの顔で愛想笑いをしてごまかす。そして彼の話を聞いて、ウィッチが納得したようにこう呟いた。
 
「君が作った薬は、肉体と精神の分離と再結合を可能にしてるんだね。興味深いなぁ……でもそれがマヤやアンゲリクスに効果が無かったのは、マヤは元々肉体と精神が完全に結合してるわけじゃなく自分の意思で肉体を切り離す事も可能だし、アンゲリクスはそもそもコアが思考や人格等の機能を担っている魔法生物だから精神という魂が存在しない。ミルフィーユも効果が無かったのはアンゲリクスと同様の理由かな? 普通の生命とは違う生体だったから、マヤたちには薬の効果が無かったみたいだね」

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MAGIC☆SALT☆PARTY 4

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