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MAGIC☆SALT☆PARTY 1

2020.11.16

神化論のオールキャラギャグです。
キャラの関係性と時系列をやや無視しています。
ギャグなのっで頭空っぽにして読んでください!

———————————————-


「ねぇ、ミレイ」
 
 その一言だけでミレイは嫌な予感がした。
 
「……なんでしょう、ウィッチ様」
 
 嫌な予感を全力で感じつつも、しかしミレイはウィッチに返事をする。
 理不尽で自由人な主は、残酷なくらい可愛い笑顔をミレイに向けてこう言った。
 
「最近暇だよね」
 
「そうでもな」
 
「暇だよね?」
 
「……ですよね」
 
 有無を言わさぬ圧力をかけるウィッチに、ミレイはちょっと泣きそうな気分で頷く。
 そしてやっぱりウィッチは、ミレイの予感を裏切らない事を告げた。
 
「よーし、それじゃあミレイ人集められるだけ大至急集めて! 久々に皆で楽しいことしよう!」
 
「楽しい事……」
 
 ミレイは思った。このままいつもどおり頷けば、まったく楽しくない面倒事にまた自分は苦労させられると。
 
(き、今日こそウィッチ様を止めなくては……っ!)
 
 そうしなきゃ自分の身が持たないと、ミレイは意を決してウィッチに意見するとこにした。
 
「あの、ウィッチ様……っ!」
 
「なにミレイ」
 
 突如声を上げたミレイに、ウィッチは疑問の眼差しを返す。そしてミレイがウィッチに『面倒な事になるような事は止めましょう』と、勇気を出して言おうとした時だった。
 
「!?」
 
 突然ミレイの背筋に強烈な悪寒が走る。
 死を予感させる恐怖がミレイを襲い、ミレイは硬直した。
 
「ねぇ、どうしたのミレイ」
 
「い、いえ……」
 
 曖昧にそう返事しながら、ミレイは悪寒の正体に気づく。自分を見るウィッチの目がまったく笑っていなかったのだ。
 
「なんだ、なんでもないんだね。よかったー、ミレイのくせに生意気にも僕に意見する気なんじゃないかと思って僕どきどきしちゃったよ!」
 
「そんな、私がウィッチ様にそんなこと……」
 
「だよね、あははははー!」
 
「……」
 
 ウィッチの楽しそうな笑い声を聞きながら、ミレイはもう色々と諦めた。
 
 
◆◇◆◇
 
 
 その頃のヴァイゼスさん家。
 
 
「ふふふふふふっ……くっくっく……あーっはっはっはっはっはっ!」
 
 ゴミと重要な資料とビスケットが乱雑に混ざる衛生環境のよろしくない研究室に、エルミラの不気味過ぎる笑い声が響く。
 
「……エル兄、気持ち悪い笑い声発してどうしちゃったの? 頭壊れた?」
 
 傍で本を読んでいたレイチェルは、本気でエルミラの気が狂ったのかと彼を心配しながら恐る恐る声をかける。するとエルミラは「失礼な、オレは正常だよ」とレイチェルに言葉を返した。
 
「えー、じゃあ今の怖い笑い声は一体なに?」
 
「あぁ、あれ? ふふふっ、聞いて驚くなよレイチェル」
 
 レイチェルに問われたエルミラは、また不審な笑い声を発しながら彼にこんなことを話す。
 
「この若き天才エルミラ様は、またまたすんごいアイテムを発明しちゃったんだよねー」
 
 エルミラのこの自信たっぷりな発言に、レイチェルは『またくだらないゴミ増やしたな』と直感的に思った。
 
「なに? すっごく興味ないけど、いつかの惚れ薬みたいなもの作って僕らに迷惑かける気だと困るから一応聞いとくよ」
 
 いつかにエルミラのトンデモ発明で散々な目にあった経験のあるレイチェルは、物凄い不審の目でエルミラにそう問う。すると案の定、今回のエルミラの発明もトンデモな代物だった。
 
「えーっとね、これだよコレ。じゃーん、他人と心とカラダが交換されちゃう不思議な魔法の白い粉! 人の体もココロもマナに変換できることを応用して、ココロとカラダの分解と再結合を可能にした……」
 
「……今すぐ捨てて」
 
「え、なんで!?」
 
 説明の途中なのに真顔で即廃棄命令を下すレイチェルに、エルミラは本気で理解不能といった驚きの反応を返す。一方でレイチェルはこの後の厄介ごとが容易に想像出来たので、何が何でもエルミラの持つ小瓶に入った不審な白い粉をゴミにしてやると怖い顔となった。
 
「エル兄の顔を見て直ぐにわかったからだよ。エル兄は僕らを巻き込んで、その妙な粉の効果の実験をする気満々だってことがね」
 
 レイチェルのずばりの指摘に、エルミラは「何故バレた」と衝撃を受けたように固まる。そんな彼を見て、レイチェルは心底呆れた。
 
「エル兄……惚れ薬の時からまったく懲りてないね……」
 
 『ダメだこいつ』と思いながら、レイチェルは明後日の方向を指差す。そうして彼は突如叫んだ。
 
「あっ! あっちに二足歩行で歩くビスケットの妖精がいる!」
 
「え、なにそれ!?」
 
 レイチェルの指差す方向にエルミラは視線を向け、彼が存在しない架空生物に気を取られている間に、レイチェルはその手から危ない白い粉の入った小瓶を奪い取った。
 
「あ、なにすんのさレイチェル!」
 
 小瓶を奪われたエルミラは、怒ったようにレイチェルに「返せ!」と言う。だが彼以上にレイチェルは怒ってた。
 
「イヤだよ。エル兄はこれで絶対に皆に迷惑かけるんだから……ぜーったいに返さないんだから」
 
 そう言うとレイチェルは、研究室の隅に不吉に立てかけてあったチェーンソーに手をかける。
 
「ちょ、待てレイチェル、なぜいきなりそんな物騒極まりないものに手を出すんだ」
 
 レイチェルのまさかの武装に、エルミラは途端に怯える。
 チェーンソーで武装したレイチェルの目は本気だった。
 
「僕がコレ捨ててくるまで、エル兄僕に近づかないでね。でないと色々保障しないよ」
 
 何かかなり物騒な脅し文句を言うレイチェルの目が怖くて、エルミラは彼に近づけなくなる。
 そうしてエルミラが悔しそうな顔で立ち尽くしている間に、レイチェルは小瓶を持って研究室を出て行ってしまう。
 
「……あぁ、オレの大発明……」
 
 一人残された研究室で、エルミラはそう悲しそうに呟いた。
 
 が、しかし。

 
「……なーんてな。くくくっ、甘いぜレイチェル。何かあったときのため、世紀の大発明を量産しておくのは常識だからな。まだまだ薬はたくさんあるんだぜ?」
 
 エルミラは一人怪しい笑みを浮かべ、誰も聞いちゃいないのに「それを捨てても第二第三の魔法の薬が現れるだろう」とか訳のわからない事を言った。
 
 そうしてまったく反省していないエルミラがまた薬を用意しようとすると、誰かが研究室の扉をノックしてやって来る。
 
「? どうぞー?」
 
 レイチェルはノックなどしないので、誰が来たんだろうとエルミラが不思議に思いながらそう声をかけると、扉を開けてミレイが研究室の中へと入ってきた。
 
「あれ、ミレイじゃん。今レイチェルならいないよ」
 
「……いや、今日はヴァイゼスの者全員に伝言があって来たのだ」
 
 ミレイのその言葉に、エルミラは「え?」と首を傾げる。
 
「なに、伝言って」
 
 エルミラが聞くと、ミレイは何か諦め切った様子でこう言った。
 
「三日後にウィッチ様がここで楽しいパーティーを開くそうだ。誘われた者は全員強制参加だからな。命が惜しくば出席しろ。以上だ」
 
「……あぁ、そう……楽しいパーティーね」
 
「……楽しいパーティーだ」
 
 何故か目を合わせようとしないミレイの様子に、エルミラは『楽しいパーティー』について色々理解した。
 理不尽な参加強制も気にはなったが、しかしいつもの事のような気もするのでエルミラは「はいはい、わかったよ」とミレイに返事をする。
 
「レイチェルにも伝えておいてくれ」
 
「はーい」
 
「そうだ。ウィッチ様が言うには、パーティーなので正装して参加しろとのことだ」
 
「正装?」
 
 ミレイの言葉に、エルミラは「オレにタキシードでも着ろっての?」と首を傾げる。
 
「そういうことだろう」
 
「げぇ、めんどくせー。タキシードなんて持ってないよー。実家にも無いし、買いに行かなきゃいけないじゃないか」
 
「ならドレスでもいいんじゃないのか?」
 
「や、それはオレがイヤだよ。いいよ、ユトナのあほとこの後タキシード買いに行くよ」
 
 『ホント面倒くさいな』と正直な感想をぶっちゃけるも、参加を断れない恐怖のパーティーなのでエルミラも諦めるしかなかった。
 
「では三日後に」
 
「はいはい、ミレイもお疲れさん」
 
「……あぁ」
 
 どこか哀愁漂うミレイの背中を見送り、エルミラは「パーティーかぁ」と呟いた。
 
 
◆◇◆◇
 
 
「パーティーだぁ?」
 
「そう! 勿論参加してくれるよね、マヤ♪」
 
 語尾に「♪」なんて付けて可愛く微笑むウィッチに、マヤは心底迷惑そうな表情で「お断りよ」と返す。途端にウィッチは「えー、なんでー?」と不機嫌な様子となった。
 
「僕の誘いを断るとか、ちょっと意味わからないよマヤ」
 
「意味わかんないのはこっちじゃボケ。なによ、また突然やって来たと思ったら『パーティーするから来てね♪』って」
 
 唐突にマヤたちの元に現れたウィッチは、暇だったので思いつきで開催を決めた謎パーティーに彼女らを誘っていた。だが当然ウィッチの自由に毎度苦労をかけられているマヤは、今回の怪しいパーティーに拒絶反応を示す。
 
「でもパーティーなんて楽しそうじゃないか、マヤ」
 
 ローズが彼女の隣でのほほんとした笑顔で言うと、マヤは渋い表情で「この馬鹿が関わる時点で楽しくなんかないわよ」とウィッチを睨み付けながら言う。
 
「確かに毎度お前の兄貴は人集めるだけ集めて、トラブル巻き起こして放置だもんな。こっちはいい迷惑だ」
 
「でしょう?」
 
 ユーリの言葉に何度も頷きながら、マヤは「だからこいつに関わらない方がいいのよ」と言った。
 
「えぇー、マヤが参加してくれなきゃ僕楽しくないぃ~。やだやだ参加してよー! マヤが参加するって言わなきゃ僕帰らない~! 世界ぶっ壊しちゃうぅ~!」
 
 駄々をこね始めたウィッチに、マヤは面倒くさそうな様子で重くため息を吐く。ローズも困ったように曖昧な笑みを浮かべた。
 
「せっかく美味しいお肉とかあま~いケーキとかご馳走たくさん用意するのに……」
 
「甘いケーキ……?」
 
 ウィッチが涙目でポツリと呟くと、アーリィが反応する。ローズも何か目を輝かせた。
 
「お酒もいっぱい用意するし……」
 
「酒?」
 
 今度はユーリの顔色が変わる。そして。
 
「参加費は取らないから、タダで飲み放題食べ放題してもらってかまわない素敵なパーティーなのになー……」
 
「マヤ、参加しよう! これはするべきだ!」
 
「そうだぜマヤ、タダ酒飲めるんだぜ!? 参加しなきゃ損だ!」
 
「マスター、ケーキが私を呼んでる気がするんです!」
 
「あ、あんたたち……」
 
 すっかりウィッチの思う壺に誘惑された三人を見て、マヤは頭痛のする頭を抱えた。
 
「は~い、それじゃあマヤたちも参加するってことで~」
 
「ちょっ、勝手に!」
 
 ウィッチの勝手な発言にマヤは慌てるも、ローズたちが行く気満々なので彼女ももう諦めるしかなかった。
 
「それじゃマヤ、三日後にヴァイゼスんとこ来てね! あ、パーティーなんだから当然ちゃんとした格好で来る事、いいね!」
 
「ちゃんとした格好?」
 
 怪訝な顔をするマヤに、ローズが「ドレスコードってやつじゃないか?」と言う。
 
「はぁ? じゃあ何よ、ドレス着て来いってこと?」
 
「俺たちはタキシード?」
 
「持ってねーよ、そんな服」
 
「……私は?」
 
 それぞれに首をかしげている間に、ウィッチは「それじゃあね!」と言ってさっさと転送魔法で消えてしまう。
 
「あっ、ちょっと待ちなさいよ!」
 
 マヤが叫ぶももう遅し、ウィッチは姿を消していた。
 
「……はぁ、面倒なことになったわね、早速」
 
「う~ん、服かぁ……用意しないとな、ケーキの為に」
 
 
◆◇◆◇


 場所は変わって、またヴァイゼスさん家。
 
「素敵なパーティーねぇ……正直仕事無い日は寝てたいんだけどねー」
 
「おいレイリス、ちょっと見てくれ!」
 
 ララの部屋のベッドを占領してだらだらゴロゴロするレイリスは、ララの呼びかけに顔を上げる。視線の先には黒の高級ブランドのタキシードを着たララが、何故か自信ありげな様子で胸を張って立っていた。
 
「どうだ、これでよくわかんねぇパーティーもばっちりじゃねぇか? 男前度三割り増しだろ」
 
「えぇ、とってもかっこいい。素敵よ、クロウ」
 
 ララの問いかけにレイリスは笑顔でそう答える。そして照れた様子となるララに、こうも続けた。
 
「思わず襲いたくなっちゃうくらい魅力的よ」
 
 本気の野獣の目で、レイリスはそう呟く。途端にララの顔色は真っ青になった。
 
「お前そういう怖い冗談いい加減やめろ、心臓にわりぃんだよ」
 
「冗談じゃないのに……」
 
「尚更やめろ!」
 
 本気で怯えるララにレイリスは笑う。ララは疲れたようにため息を吐き、そして彼にこう聞いた。
 
「で、お前はちゃんと正装用意してあんのか? エルミラたちは昨日早速買いに行ったみてぇだが……」
 
「パーティー出るような服は持って無いけど、さっきエレスティンに相談したら女性陣のドレス用意するついでにあたしのも用意してくれるって。しかも経費で購入してくれるとかなんとか」
 
「なんだと! そりゃお前、うらやましいな」
 
 経費で服が手に入ると聞き、ララは本気で羨ましそうな顔をする。レイリスも「相談してラッキーだったわ」と笑った。
 だがこの時の彼はまだ知らなかった。経費でエレスティンが購入する衣装が全て”パーティードレス”だと言うことを。

「でもお前、ちゃんと自分で選ばなくていいのか? サイズとかあるし」
 
「サイズは伝えてあるし、別に大丈夫でしょう。エレスティンもそんな変なタキシード用意しないわよ」
 
「そうかぁ? ちゃんと自分の目で確かめた方がいい気がするけどなぁ」
 
「えー、だって買いに行くの面倒だしぃ……って言うか眠くなってきちゃった。ねぇクロウ、ここで寝てい~い? クロウの男らしい加齢臭のするベッドで一眠りしたい~」
 
「ふざけんな、絶対寝るんじゃねーぞ! つーか待て、加齢臭ってなんだ! ま、まじか!? やっぱするのか俺!?」
 
「おやすみなさーい」
 
「おい、寝るな! 起きろ馬鹿! 答えろおぉ!」
 
 
 
 
 一方こちらは早速大都市クールークの高級ブティックにドレスを購入しに来たエレスティンたち女性陣。
 
「それじゃ私はこの黒のパンツドレスで、カナリティアは今着てるそのピンクのドレスね」
 
「わ、わたしはこの青の……うぅ、ちょっと胸見せすぎな気もするんですが……」
 
「リーリエさんに似合いますよ、そのドレス! とってもセクシーで素敵です!」
 
「あ、ありがとうございます、アゲハ……」
 
「私はこの緑のバルーンドレスにします! ふんわりして可愛いので!」
 
「レイリスはどうしましょうか?」
 
 ピンクの生地と白のレースが愛らしい子供用のドレスを試着したカナリティアが、思い出したようにそう呟く。
 
「そうね、どうしましょう」
 
「あ、レイリスさんですか!? 私、このドレスがレイリスさんにぴったりだなーってさっきからずっと思ってたんですよ!」
 
 普段あんなノリだからか純粋にレイリスの性別を勘違いしてるアゲハは、とても目を輝かせて朱が鮮やかに美しい深いスリットが入ったドレスを手にする。それを見てリーリエはひどく困惑した。逆に言えば困惑したのはリーリエだけだった。カナリティアは何か企んでそうなニヤニヤ笑顔を浮かべ、エレスティンはドレス云々よりもその会計が気になる様子だった。
 
「あの、確かにそのドレスはとっても素敵ですけど……でもあの、レイリスは……」
 
「いいんじゃないですか、リーリエ。彼あんなキャラなのに何でかスカートとか嫌がって穿いてくれないじゃないですか。なんか凄く面白そうだし、あれでいいですよ。わざわざ経費で買った服なら着るの断れないでしょうし……ふふっ」
 
「それじゃあそれでいいわね。さ、会計して早く帰りましょう。……髪型とかどうしようかしら」
 
 確かに変なタキシードなど用意しないエレスティンだったが、レイリスが面倒くさがってだらだらしている間に彼女は特に何も考えず彼の分もまとめてドレスを購入しちゃうのであった。



 
 エレスティンたち女性陣がパーティーを華やかに彩るドレスを用意している頃、ジューザスの部屋でこの男はやはりというかジューザスに対して理不尽な怒りをぶつけていた。
 
「パーティーだと……? またあのクソガキ、ふざけたことを言いやがって……」
 
「マギ、怒るのは自由なんだけど私を睨まないでくれないか?」
 
「なんだとっ!?」
 
「ひぃ!? だから私に怒らな……うぐっ!」
 
「貴様があいつをしっかり見張らず野放しにしているから、あのガキは調子に乗って毎回好き勝手するんだろうが! つまり全てお前の責任だ、ジューザス!」
 
 ブチ切れしてるマギがジューザスの首をぎゅうぎゅうと絞めながら怒鳴る。だがジューザスは酸欠で意識が遠のいて、マギの怒りを聞いてる場合じゃなかった。
 
「ぐげ……しぬ……っ」
 
「おい、俺の話を聞いてるのかジューザス! 白目向いてる場合じゃないぞ!」
 
 ジューザスが白目向いてるのはのはマギ自身のせいなのだが、あいにく今現在のジューザスにそれをツッコむ余裕は無い。
 やがてマギが手を離すと、やっとジューザスは意識を取り戻した。
 
「……はっ! はぁ、はぁ……今、花畑がほんとに見えた……っ! 二本足で立つビスケットの妖精が川の向こうで手招きしてたよ……」
 
「何訳のわからない事を……それよりもジューザス、俺はあのクソガキのお遊びになんぞ付き合わないからな」
 
「え、ええぇ~」
 
 誘われたら全員強制参加の恐怖、もとい楽しいパーティーは、当然ヴァイゼスのメンバー全員誘われてるのでマギも強制参加者の一人となっている。これでマギが参加しない場合は、なんでか代表というだけで自分にとばっちりで罰があるだろうことは容易に想像出来た。なのでジューザス的には、何が何でもマギにも参加しても らわなくてはならない。彼は自分の命の為にマギを必死で説得し始めた。
 
「マギ、頼むから参加してくれ! 君の服は私が用意するから!」
 
「服なんぞいらん! 俺は参加しない!」
 
「そんなこと言わないでくれ! 君が参加しなかったら、何故か私がウィッチに怒られるんだ! いや、怒られるならまだいい、どんな拷問を受けるか……うあぁ、考えただけでも恐ろしい!」
 
「知るか! 勝手に拷問でもなんでも受けろ!」
 
「そんなっ……君は私がどうなってもいいのかい!?」
 
「ちょっ、泣くな鬱陶しい!」
 
 ジューザスは今までのストレスも相俟って、ちょっとマジ泣きしながらマギに詰め寄る。その時、二人の元にユトナがやって来た。
 
「ジューザス様ぁ、明日のパーティーのことで聞きたい事が……」
 
 しかしマギを説得するので忙しいジューザスは、ユトナの訪問に気づかない。気づかないまま彼は、泣きながらマギに自分の心情を訴えた。
 
「大体最近の君は私に冷た過ぎるよ! 昔はあんなに優しくしてくれたじゃないか! なのにどうして……」
 
「き、気持ち悪い言い方をするな!」
 
 ストレスたまり過ぎてそろそろ色んな意味で壊れそうなジューザスは、「君は私のことが嫌いになったの!?」と大声で叫ぶ。それを聞いたユトナは、激しく大きな誤解をして「えええぇーっ!」と叫んだ。このユトナの叫びで、やっと二人はユトナの存在に気がつく。
 ユトナは驚愕に目を見開き、震える声で二人にこう言う。
 
「そそそ、そんな……二人ってまさかそういう関係だったなんて……あわわわわ、エルミラに報告しないと……っ」
 
「なっ、おい待てユトナっ!」
 
 恐ろしい誤解をしたユトナにマギは焦るも、むしろもう完全に壊れて『どうにでもな~れ』状態になったジューザスは彼をがっちり掴んで離さない。ユトナは「うわああぁぁなんか怖いあの二人の関係!」とか叫びながら、一目散にこの場を逃走してしまった。
 
「くそ、離せジューザス! 貴様のせいで何かとんでもない誤解をされたぞ! どうしてくれる!」
 
「いいや離さないよマギ、君がパーティーに参加するって言うまでは絶対にね……っ!」
 
 壊れて吹っ切れたジューザスは、虚ろな笑顔でマギに「参加してくれないなら私はむしろ君とそういう関係だって積極的にここで噂流してやる」とホラーなことを言う。これにはさすがにマギも恐ろしさのあまり観念した。
 
「冗談じゃない! くっ、わかった! 出てやるから離せ! そしてさっきの誤解した馬鹿をなんとかしろ!」
 
「本当かい!? 嘘だったらレイリスにアドバイスと協力してもらって、もっとえげつない内容の噂を流すよ!?」
 
「本当だからやめろ!」
 
 壊れたジューザスに観念してマギがそう返事をすると、ジューザスはほっと安心した様子でやっとマギを解放する。
 
「あぁ、よかったよ! これで私も地獄を見ずに済む」
 
「安心してないで、さっさと誤解した馬鹿に訂正しに行って来い!」
 
「あ、はいはいわかったよ」
 
 こうしてマギも無事(?)恐怖のパーティーに参加となった。
 
 
 
 
 パーティー前日の日、可哀想なウィッチの下僕……いや、忠実な部下のミレイは、一人せっせとパーティーの準備に勤しんでいた。
 
「あれ、ミレイ」
 
 ヴァイゼスの施設の廊下で、なにやら大荷物を持ったミレイと鉢合わせしたヒスは、ミレイに「なんだ、その荷物は」と声をかける。ミレイは立ち止まり、「明日の準備の品だ」と答えた。
 
「そうか、大変だな。……食材か?」

 ミレイの持つ買い物袋にはくだものや肉や野菜などが、袋からはみ出すほどにぎっしり入っている。
 
「そうだ。ご馳走を振舞え、というウィッチ様の命令だから色々買ってきた」
 
「まさか料理ってお前が作るのか?」
 
 色々不安になったヒスがそう聞くと、ミレイは「料理は別の者が作る」と答えた。
 
「あぁ、そうか……何となく安心したよ」
 
「ミルフィーユが一人で作る予定だ」
 
「お……ちょっとまた不安になったぞ」
 
 ウィッチの下僕その2のミルフィーユ(無口バージョン)が料理を作ると聞き、ヒスは「大丈夫なのか?」と正直な不安を呟く。だが何となくミレイが作るよりは大丈夫な気もして、とりあえずは明日に期待することにした。
 
「それじゃあ頑張れよ」
 
 ヒスはそう言ってミレイとすれ違う。そしてしばらく廊下を歩いた彼は、廊下に何か小瓶が落ちているのに気がつく。
 
「? なんだ?」
 
 ヒスは廊下に落ちていた小瓶を拾う。小瓶の中には白い粉末状のものが入っており、貼られていたラベルには『塩』と書かれていた。
 
「ミレイが落としたのかな……」
 
 ミレイが今買ってきた調味料を落としたのだろうと思い、ヒスは踵を返してミレイを追う。そしてミレイを呼び止め、彼は小瓶をミレイに渡す事にした。
 
「ミレイ、調味料落としたぞ!」
 
「なに?」
 
 ヒスに呼び止められ、ミレイは足を止める。ヒスが「ほら」と今拾った小瓶を渡すと、ミレイは「すまない」とそれを受け取った。
 
「……」
 
「……どうした、ミレイ」
 
 ヒスから受け取った小瓶をじっと見つめるミレイに、ヒスが不思議そうに声をかける。するとミレイは「いや、こんな塩買ったかと思って……」と呟いた。
 
「買ったんじゃないか? まぁ、それだけ大荷物になるほど物を買えば何を買ったか忘れるのも無理は無いだろうけど」
 
「……そうか」
 
 ヒスの言葉に納得し、ミレイは小瓶を買い物袋にしまう。そして「では明日」と言い、ミレイはヒスに背を向け立ち去った。
 
 
 

 その頃研究室では、エルミラが不吉な行動を取っていた。
 
「あれぇ~……無いなぁ、どこやっちゃったんだろう」

「エル兄、さっきから何探してるの?」
 
 ただでさえごちゃごちゃして汚い研究室を、さらにごっちゃごっちゃに引っ掻き回しながら何かを探すエルミラを見て、レイチェルが迷惑そうな表情で声をかける。
 エルミラは何かを探しながら、レイチェルの問いにこう答えた。
 
「いや、塩に偽造した例の魔法の白い粉が一瓶見当たらなくて……」
 
「え?」
 
「あっ!? い、いや、何でもない! き、気にしないで!」
 
 レイチェルの不審の眼差しに曖昧な笑顔を返しながら、エルミラは考える。
 
(たしかズボンのポケットに入れたままで、ユトナいわく『ジューザス様とマギがアレな関係』だって話に驚いて、ジューザス様たちに直接確かめに行ったらマギに鎌持って追いかけられて……で、気づいたら一個無くなってて……)
 
 どこかでアレを落としてしまったのだろうかと、エルミラはちょっと顔色を青くさせる。
 落としたとしてもどうかそのまま紛失か、たとえ拾った人がいてもゴミとして処分してくれますようにと何かに祈った。
 
 
◆◇◆◇
 
 
 そして危険なフラグが立った謎パーティー当日。
 
 の、朝。
 
 
「……ちょっと待ってエレスティン、なんであたしにドレス渡すのよ」
 
「え? だってレイリス、あなた私に服用意してって頼んだでしょう?」
 
 パーティーは午後からなのでまだ時間がある為、今日は朝から医務室のベッドでだらだらゴロゴロしてたレイリス。そんな彼の元に、エレスティンが約束の衣装を持ってやって来る。そしてまさかのパーティードレスを見て、さすがのレイリスも困惑した表情となった。
 
「た、頼んだけど……エレ、あたし立派な男よ?」
 
「あ、そうだったかしら? でももう買っちゃったし……これで我慢してくれない?」
 
 『あ、そうだったかしら?』の一言で全てを片付けるエレスティンに、レイリスは色々絶望する。薄々前から気にはなっていたが、女性陣に同性と認識されてる現実に、レイリスも本気で自分のキャラを見直すべきかと悩んだ。
 
「いいじゃないか、着れば」
 
「ヒス、海の底に沈められたくなければ黙ってなさい」
 
 まだいつもの白衣姿のヒスが笑いながら口を挟むと、レイリスはぞっとするほど静かな声で即返事を返す。死にたくないので、ヒスは「はい」と返事して口を閉ざした。
 
「エレスティン、これ以外になにか無いの?」
 
 おもっくそセクシーなスリット入ったドレスはさすがにご遠慮したいレイリスは、エレスティンに真剣な顔でそう問う。するとエレスティンは「他に購入したのもドレスだけよ?」と、レイリスに絶望を返した。
 
「……いつものコートで出席でいいかな、あたし」
 
「だ、だめよ! それでもしウィッチの機嫌を損ねたらジューザス様が大変なことになるのよ?!」
 
 エレスティンが「これで我慢して、レイリス」と真剣に頼み込むと、レイリスは重い重~いため息を吐いた。
 
「確かに頼んだのはあたしだけど、でもこれは……無いでしょ」
 
「で、でもとても素敵よ?」
 
 エレスティンは取り繕った笑顔で、「そうそう、私はこんなドレスを買ったの!」とレイリスに自分用の黒いパンツドレスを見せる。するとレイリスはしばらく考えるようにそれを見つめ、やがてこう言った。
 
「そ、そっちがいい! ドレスしか選択肢が無いって言うなら、せめてそっちがいいわ!」
 
「え?」
 
 パンツドレスならスカートではないしまだ印象的に『かっこいい』感じなので、レイリスは「それと交換してくれない?」とエレスティンに頼み込む。エレスティンは「でも、サイズとか合わないんじゃ……」と困惑したように呟いた。
 
「大丈夫よ! あたしとあなた、身長もそんなに変わらないし!」
 
「そ、そうかしら……?」
 
 エレスティンは「じゃあ仕方ないわね」と、黒のドレスをレイリスに渡そうとする。と、その時この眼鏡がまた余計な一言を発した。
 
「本当に交換して大丈夫なのか? 確かに身長は似たようなもんだが、しかしエレスティンの方が体重が……ぐふっ!」
 
 ヒスが余計な事を全て言い終える前に、般若を背後に纏ったエレスティンの鉄拳が彼のボディーにぶち込まれる。くぐもった生々しい悲鳴と共にヒスはぶっ倒れ、彼の眼鏡も派手に吹っ飛んだ。
 
「ヒス、五体満足でいたいのなら黙っていなさい」
 
 鬼を宿したエレスティンの冷たい声に、何故かレイリスが泣きそうな顔で震える。ヒスはもう既に余計な事どころか、普通にも喋れるような状況じゃなかった。
 そして非常に怖~いオーラを背に纏ったまま、エレスティンが怯えるレイリスの方を向く。
 
「レイリス、気が変わったわ……やっぱりあなた、その赤いドレスでいいわよねぇ……?」
 
「は、はい……っ!」


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MAGIC☆SALT☆PARTY 2


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