神化論クリスマス小話再録(2)
2020.12.25
神化論after更新しました!
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今日のブログは昨日の続き、『神化論』のクリスマス小話再録(後半)です。
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【エルミラの夢】
「エール!」
「ん?」
そんな愛称で呼ばれるのはいつぶりだろう。そんなことを思いながら、エルミラは機械を弄っていた手を止める。そして「なんだ?」と、顔を上げた。
「もう、エルってばまたあたしのこと忘れて研究してたわね!」
「あ……イリージャ」
自分を呼んだのは金髪碧眼の小柄な少女。彼女はジトッとした目でエルミラを睨みつけ、「彼女ほっといて研究ばっかしてんじゃないわよ、ばーか」と彼に言った。
「あー……ごめん。でもあれ、確かイリージャとは3年前くらいに別れたような……」
「はぁ! 別れた!? 信じらんない! いつあたしとあんたが別れたのよ! ばかばかばかっ!」
エルミラの言葉におもいっきり怒るイリージャ。彼女はエルミラにマジの蹴りを食らわす。エルミラはよくわからないまま「あーなんかわかんないけどごめん!」と謝った。
「ほんとに悪いと思ってんの!?」
「お、思ってる……マジマジ」
「じゃあチューして」
「ちゅー?」
イリージャは「そうよ!」と言ってエルミラの首に腕を回す。そうして少し恥ずかしそうに目を閉じる彼女に、エルミラは「はいはい、チューね」と言いながらゆっくり顔を近づけた。と、頭に重い衝撃。
「いったぁっ!」
そう悲鳴を叫びながらエルミラは後ろを振り向く。そこにいたのは、今度は鬼のような形相をした黒髪の美女。その手には何故かフライパン。
「エルミラ、これはどういうことかしら……」
「ひぃ……なんでルリまでここに……」
イリージャと同じく昔愛想をつかされて別れたはずの彼女の登場に、エルミラは段々と混乱していく。
「しばらく研究に集中したいから連絡とれないって言ってたけど、本当は浮気中だったわけね!」
「えぇ! 誤解だよルリ! てかオレ、ルリと付き合ってた頃にはもうイリージャと別れてたし!」
「ちょっとエル! だから別れたってなによ! あたしとあなたは恋人同士でしょ! 大体この女なによ!」
「えっと……オレもよくわかんない……」
「わかんないわけないでしょ! 私はあなたの彼女よ!」
美女二人に挟まれて混乱しているエルミラの元に、さらに悪夢が迫る。
「エルー、な~に女の子に囲まれて楽しそうにしてるのかなぁ~?」
そう言ってやって来た第三の女は灰色の髪に褐色肌の女の子。かなり大きな胸を揺らしながら、彼女はエルミラに笑顔で近づいた。
「な、なんでクェリまで……」
「えへへ~、クェリねぇ、浮気は許さないよぉ~」
笑顔で殺気とともにやって来る元彼女のクェリに、エルミラは命の危険を感じ始める。
「浮気しちゃう奴にはぁ~、クェリがお仕置きするから覚悟してねぇ~」
そう言ってクェリは懐から鉈を取り出す。気がつくとイリージャも拳銃を持ってエルミラを睨んでいた。
「ちょ、まって……なんだよこの悪夢はっ!」
三人の美女(武装済み)に囲まれながら、エルミラは『夢なら早く覚めて』と真剣に願った。
【マギの夢】
温かそうな湯気の立つお皿を持って、彼女はマギの元へやってくる。
「お待たせ、マギ」
そう言ってエプロン姿のレンツェは微笑み、席に着くマギの前のテーブルにお皿を置いた。
「今日はね、魚が安かったからお魚のフライだよ。あとはマギの嫌いな生野菜たっぷりサラダ」
「そうか」
「サラダ残したら駄目だよ。そうしたらもうずっと食事生野菜にしちゃうから」
レンツェの意地悪にマギは苦笑しながらも食事に手をつける。マギが食べ始めると、レンツェはちょっと心配そうな顔で「美味しい?」と聞いた。
「あぁ」
「ほんとー? いつもマギって『あぁ』とか『うまい』とか……そればっかだからなんか不安だよ~」
「俺の作る料理よりはよっぽど美味い」
そう言ってマギがサラダに口を付けると、レンツェは笑いながら「マギと比べられても嬉しくないよ」と言った。
「でもま、いつもマギって残さず食べてくれるからいっか」
レンツェは微笑み、「ありがと」と言う。マギはちょっと笑った。だが彼のこの表情は、直後に恐ろしいことになる。
「ところでマギ、今度いつ家にジューザスさん遊びに来るかなぁ?」
「ジューザス?」
食事をしていたマギの手が止まる。レンツェはマギの様子の変化に気づかず、「うん」と言葉を続けた。
「前にジューザスさん家に来たとき、あの人私の作ったシチュー凄く美味しいって言って食べてくれたじゃない? 私すっごく嬉しかったから、今度ビーフシチューもご馳走したいなーって」
「……お前はあいつのことがそんなに好きなのか?」
マギは引き攣った表情でそう静かに問う。一方レンツェはにっこり微笑みながらこう返した。
「ジューザスさん? うん、大好きよ」
「……」
マギの中でなんかがブチ切れた。
【ジューザスの夢】
それは風邪を引いた日の悪夢だった。
「ジューザス、お姉さんたちがあなたの風邪が治るまで付きっ切りで看病してあげるからね」
「そうですよ~、だから安心して寝ていてくださいねぇ~」
『寒いといけないから』と、姉二人に縄を使って体に布団をグルグル巻きにされて。
「料理も二人で用意したのよ」
「ジューザスが早く良くなるようにって、オリジナルの栄養満点なおかゆを作りました~」
二人の作った魔物の血と肉が入った生臭いおかゆを無理矢理食べさせられそうになり。
「薬も飲まないとね」
「姉さん大変、薬箱に下痢止めと食あたりの薬しかないです~」
「え、マジ? 困ったわね……じゃあとりあえず、それ飲ませておこうか」
「そうですね、風邪には関係ないけど薬ですし~」
風邪には無関係の薬を無理矢理飲まされ。
「あ、いけない姉さん。これ片方座薬でした~」
しかも座薬だった。
「それはまずいわ! ジューザスほら、吐き出してっ!」
「姉さん、喉に指を突っ込んで吐き出させたらどうでしょう~?」
「そうね、それがいいわ!」
「わあぁぁぁねえさん、もう勘弁してくれっ!」
そんな絶叫と共にジューザスは汗だくで目を覚ました。
◇◇◇
「それでですね、私はお母さんに褒められる夢を見ちゃいましたー!」
「ふふ、それはいいですね」
「僕はお父さんの夢、見たよ。お父さんね、僕に『大きくなったな』って……なんか夢でもすごく嬉しかったよ」
恐ろしい悪夢で目を覚ましたジューザスが施設内をよたよた歩いていると、廊下でメンバーが数人楽しげに話しているのを見つける。
「あ、ジューザス様! おはようございますー!」
「あぁ、おはようアゲハ」
ジューザスは話をしていたアゲハとレイチェル、それとカナリティアに「なにをそんなに楽しそうに話していたんだい?」と聞いた。するとアゲハが笑顔でこう答える。
「夢の話です!」
「夢?!」
アゲハのその言葉にジューザスはぎょっとする。そんなジューザスの反応を少し疑問に思いながら、カナリティアは「なんだか昨日はとてもいい夢を見たので、みんなでそれを話していたんです」と言った。
「へ、へぇ……いい夢を見たのか。どんな夢かな?」
「私は両親に褒められる夢です!」
「僕もお父さんの夢」
「私は……ふふ、ちょっと懐かしい夢を見ました」
そう言って三人はそれぞれに笑う。ジューザスは「そうか、いい夢ならよかったね」と彼らに言った。
「あ、でもちょっとおかしいんですよね」
「ん?」
首を傾げるアゲハは、ジューザスにこんなことを言う。
「昨日は怖い夢を見た人がたくさんいるらしくて、今ヒスさんのところに怖い夢見た人が相談に行ってるんですよー」
「……へぇ」
◇◇◇
ジューザスが医務室に向かうと、たしかにそこはアゲハの言うとおりのことになっていた。
「うわぁぁ~ん……虫が……虫がこわいですぅ……そんなの食べれないですよぉ~……」
「うおぉエミリぃ~、お前が嫁にいっちまうなんてそんな……うぅ、父さんは寂しいぞぉ……」
「違う、あんな変態兄じゃない……」
「ごめんね! ごめんねリディ! お姉ちゃん力強くてごめんなさいっ!」
「う~ん……こ、殺されるぅ……なんでこんな修羅場に……」
「……ヒス、これは一体……」
医務室がどんよりとした空気に包まれている中、ジューザスはマイペースに仕事をしているヒスに話しかける。するとヒスは「なんだか悪夢を見るのが流行ってるみたいだぞ」と彼に言った。
「なんだい、それは」
「さぁな。よくわからないけど、昨晩恐ろしい夢を見た奴が多数……なにかの病気なんじゃないかってこいつらが心配するから今調べてるんだよ」
ヒスは医学書らしき本を眺めながらそうジューザスに言う。ジューザスは「へぇ」と返事をしながらも、自身に思い当たることがあったために青ざめた。
「と、ところでヒスは怖い夢を見たのかい?」
「ん? 俺か? いや、俺は見てないな。それどころか普通の病院で普通に働いて普通に可愛い嫁さんもらって普通に充実した人生を歩むっていういい夢を見たくらいだ」
「あ、そう……」
どうやら昨晩はいい夢をみた人と悪い夢を見た人がいるようだと、ジューザスは考える。だがこの怪奇現象の原因がまったくわからない。
「なんでこんなことに……」
「ホントだよな。ユトナも朝から『ユーリあいつマジゆるさねぇ!』とか叫んでどっか行っちまうし……一体どうなってるんだか」
ヒスがそんなことをぼやきながら溜息を吐く。と、その時医務室の扉が勢い良く開いた。
「見つけたぞジューザス!」
「ま、マギ!?」
何故か鬼のような形相のマギが、ジューザスを見るなりカスパールを構えて「貴様殺す!」と叫ぶ。
「な、なんでいきなり!」
「うるさい! いいから死ね!」
理由もわからず慌てて逃げるジューザスを追い、マギが「待てジューザス!」と言い医務室を飛び出していく。ヒスはコーヒーを飲みながら「ホントになんなんだろうな、これは」と呟いた。
◇◇◇
「ねぇミレイ、みんな昨日の夜は僕のおまじないでいい夢みてくれたかなぁ?」
「おまじない……私には呪いの儀式を行ったようにしか見えませんでしたが……」
「あははははっ!」
【END】