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【夢魔さんと大学生さん】ss:another

2021.06.21

今日は夢魔さんのssです。
秘密にしている夢魔さんのアレの話。






「ねぇ、どうしてあなたはニンゲンさんに興味を持つのですか?」

 そう無邪気に問いかける彼女に視線を向ける。同じ顔。同じ笑顔。彼女は私にとって鏡のような存在。

「どうして、ですか」

 違うのは髪色と瞳の色くらいだろうか。
 彼女が小首を傾げると、鮮やかな桃色の髪が軽やかに揺れる。青い瞳は心を見透かすように細められる。

「難しい問いですね」

 私は彼女とは違う、紫電の眼差しを糸のように細めて考える。私はどうしてヒトに興味を持つのか。
 私が問いに対する答えを紡ぐ間、彼女は感情の伴わない笑みを私に向け続けた。

「……そう、ですね……楽しいからでしょうか」

「たのしい? へぇ」

 やっと私の口から紡がれた問いに対して、彼女は大きく目を開けて意外そうな表情を浮かべる。しかし、すぐに彼女の表情は薄い笑みへと戻った。

「ヒトって楽しいですよ。泣いたり、笑ったり、怒ったり……彼らの心はたくさんの感情で忙しないです。それに触れたら楽しいと感じませんか?」

「ニンゲンさんが感情豊かなのはそのとおりですけども……でも、その感情の根源は”欲”ですよ。感情の先にある醜い欲望……それが、楽しいのですか?」

 彼女は私を試すような、そんな視線を向けて問うてくる。

「そこまでは……よく、わからないですけど」

 問われてばかりではなんとなく負けた気分になるので、私は逆に彼女へと問い返す。

「あなたはヒトに興味はありませんか?」

 私がそう聞くと、彼女はその目を愉快そうに細めて答えた。

「ありませんねぇ。ニンゲンさんの願いを叶えるのは楽しいですが、ニンゲンさんそのものはつまらないですから」

 まっすぐに私を見つめる冷たい青い瞳は、彼女の心の色のようで。

「そうですか」

 私が軽くそう返事を返すと、彼女は可笑しそうに肩を揺らして笑った。

「ふふ……不思議ですね、私はあなたなのに。どうしてこうも考え方が違うのでしょう?」

「同じであって、違うからでしょう。いわばあなたは私の”鏡”ですから」

 私は答え、そして”この空間”を閉じることにする。今は、あまり彼女とは長く話していたくはない。

「……それでは、またお会いしましょう」

 私がそう言って踵を返すと、背後から彼女の声が聞こえた。

「またここにきてくださいね」

 私はほんの一瞬足を止め、背後を振り返った。

「いつでも待ってますから、アリス」

 ここは私と彼女だけの世界。私の心の深層。

「……えぇ。また来ますよ」

 私の返事に、もう一人のアリスはただ微笑んで私を見送った。




ALICE ――夢魔さんの真名。ただし、それを知る者は誰もいない。

「誰も本当の私には興味がないんです。だから語りません。私はただの『夢魔』なんです」


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