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【徒花】06

2020.08.07

 ところでアイリスの行った邪神の封印には、実は『完全ではない』という致命的な弱点があった。
 邪神の力は非常に強く、封印はそれに抵抗するイシュオットメアリによって、なにも対応をしなければ数年で破られてしまう。
 アイリス自身もそのことは理解していたので、彼女は自身が生きているうちは何度も重ねて封印を施した。そうやって邪神を封じ、大陸の平和を守ったのだ。
 そして彼女の死後、封印の継続は彼女の子孫によって引き継がれている。それが現代ではイリスの役目であり、彼が禍を封じている現代の依代『アネモネ』を監視している理由である。

 封印の場所と依代ついては、当初と現代では大きく異なる。初代の封印を行ったアイリスは自身の愛用していた槍を依代にして、土地に禍を封じ込めた。しかしその後に禍を封じ込めた土地には徐々に悪影響が生じ、土地が腐り果てるなどの現象が起きることとなる。また、禍を封じた土地には異形の魔物が多く生まれるようになり、人が近づけない場所と化した。さらに土地が腐ると生まれる一番の問題は、禍を封じる封印が大きく綻ぶことだ。土地が禍そのものと化して、封印という役割を果たせなくなるのだろう。当初は何度も土地の浄化を行い、そのうえで土地への封印を重ねてきたが、やがて土地の浄化が追い付かなくなる事態となる。そこで新たな封印の地を探すこととなったが、どこの国も禍を受け入れることなど許さず、結局『イシュオットメアリ』を召喚した疑惑を持つイデア同盟シルベストリス家領土内で禍を封じ続けることとなるのだった。

 その後シルベストリス家は封印について独自に研究を行い、自分たちの領土をこれ以上汚染させないために、やがて土地への封印の代わりとなる方法を生み出す。それが封印の依代と場所を兼ねる人の体内へ禍を封印する方法であった。
 当初は禍を受け入れた人間は禍に飲まれて命を落としたが、長年研究と実験を重ねた結果に、依代として高い魔力と精神力を持つものを起用することで、封印を安定させることに成功する。そうして近年では土地の汚染を避けるために、シルベストリス家の者を生贄の『巫女』として、その身に禍を封じることが封印の方法へと変わったのだった。

 アネモネは現代の禍を封じている依代であり、その身を犠牲に禍を封じる『巫女』と呼ばれる存在である。そしてその巫女は、本来ならば女神と同様に禍を封じる役割を担うために、人々に崇められる存在でもある。しかし実際は女神のように表立って人々に感謝されることはなく、それどころか得体のしれない化け物扱いされることが多い。

 実際、禍を体内に宿すアネモネは、イリスの持つ『女神の力』で定期的に禍の力を弱めてもらわなくては、やがては禍に飲まれて彼女自身が『禍』と化してしまう。人々が彼女を恐れるのも無理はないのかもしれない。
 塔に幽閉されていた時のアネモネがイリスと直接接する機会は無かったが、イリスは塔にある「祈りの場」にて彼女の中の禍の力を弱める儀式を定期的に行っていた。今までを振り返っての自分とアネモネの直接的な繋がりは、おそらくそれくらいであるとイリスは思う。

「もしかして、禍を封じる儀式を通じて……私のことを知っていたの?」

 イリスがそう問うと、アネモネは僅かに視線を上げて「はい」と頷いた。

「ずっと、感じていました……あなたのこと。私が、私でなくなりそうな時、助けてくれるあなたのこと……時々苦しくて、誰かの……世界を呪うような怨嗟の声のように、囁く声が聞こえてくる時……いつもきまって、その声をかき消してくれる光が、私を包んでくれて……『あぁ、また、女神さまが助けてくれた』って、そう感じてたんです」

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