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【徒花】05

2020.08.06

 アネモネは目を伏せ、寂しげにそう呟く。そんな彼女の様子を見て、イリスは違和感のようなものを心に感じた。
 イリスの内心など知らず、アネモネは寂しげな様子のままに言葉を続ける。

「禁忌を犯して、呼び出されたイシュオットメアリ、は……おそらく、呼び出したゲシュの願いによって、その力でヒトを破滅へ導きました……。ゲシュの願いは、叶えられた……けれども、それで終わりではなかった……」

 呼び出された邪神がその後どうなったのか、それはイリスもよく知っている。いや、知っているどころか彼は邪神の末路に関わる人物であると言ってもいいだろう。
 イリスはおもむろに口を開き、アネモネの言葉の続きを語った。

「イシュオットメアリはヒトを滅ぼすだけでは満足しなかった。その悪意はゲシュにも向けられた……ヒトを焼き尽くした炎がゲシュを襲う炎へと変わろうとした時、暴走する邪神に一人の女性が立ち向かい、七日にも及ぶ長い戦いの末にその女性は邪神を封印した。彼女の名は『アイリス』――現代では彼女は大陸を救った女神と崇められている」

 狂える邪神を封じて人々を救った女性アイリスは、邪神を封じる前はほんの僅か奇跡の力が使えるだけの普通の女性であったという。
 ただ、彼女は誰よりも慈悲深く優しい心を持った女性であり、邪神の炎がヒトを焼き尽くした時に彼女はそのことをひどく悲しんだ。そしてそれ以上の怒りを胸に、彼女はたった一人邪神に挑んだのだ。
 そんな彼女は邪神を倒せはしなかったものの、邪神を封印することに成功する。その封印とは邪神が呼び出された場所、すなわちイデア同盟シルベストリス家領地内の森に依代と共に邪神を封じるというものであった。そうして大陸有史以来の危機は一先ず去り、多くの『ヒト』を失うという大きな代償を残して、再びの平穏が訪れる。
 その後アイリスは大陸を救った英雄、あるいは彼女が非常に美しい女性であったことから『女神』などと呼ばれて、大陸には彼女に対する信仰が生まれる。アイリスはそれを受け入れ、その後の彼女は自身の命が尽きるまで邪神の封印を監視することを誓い、自身の亡き後も封印を続けるためにイデア同盟盟主のマーシェンス家の血縁の男性と結婚、子を儲けて後世の封印を自身の血縁に託したのだった。

「そして私はそのアイリスの直系の子孫。現代の『女神』、と……一応、そういうことになってるね」

 男性である自身が『女神』と名乗らざるを得ない状況を、イリスは正直忌々しく感じている。あくまで『女神』とは象徴としての名前であることは理解しているので、一応受け入れてはいるのだが。

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